プロローグ part.2 (side.都)
それは、夕食時の事でした。
「来月、仕事の都合で引っ越す事になる」
「そう……なんだ」
「ごめんね、また学校変わって」
お母さんの仕事についてはよく知りません。けど、特殊な仕事で忙しいのは知っていました。だから、また急な転校をするぐらい平気でした。
でも、お母さんからするとそうではないようで、頰をかきながら申し訳なさそうにしていました。そんなお母さんを安心させる為に笑顔を向ける。それが良い子としての正しい行動だから。
「ううん、仕事なら仕方ないよ。 それにわたしは平気だから」
別に、この街を離れたくない程好きな訳でも、別れを惜しむ友達がいる訳でもない。だから、街を離れるくらいなら我慢出来ました。
だって、私は良い子だから。
「それで、次の引越し先は──海外になるよ」
「……え……?」
けど、それは日本ならの話。
「まぁ、大体二、三年くらいでこっちに戻れるとは思うけど」
「それは、
どうしても抑えれなかった。本当に良い子なら口に出す筈がない言葉を。
「
「……ん、んぅ」
お母さんの
本当はそんな事を口に出すつもりはなかった。いや、出したくなかった。出してしまうとそうなる事は容易にイメージ出来た。なのに、出してしまった。
その理由は不明瞭なもので、日本を出るのが怖いとイメージしてしまったから。でも、私の家族はお母さんしかいない。そんなワガママを言ってもお母さんを困らせるだけで、何にもならない。
だから、解決策は一つしかない。今からでも良い子になって諦める。いつも通りに。
「あ、あの……お母さん」
「んー、分かった」
「え、それって、どういうこと……?」
「
「それって確か」
「そう。 私の大親友、都の大好きな
「ふえっ、だ、大好きな!? そ、それは、ちょっと、違うもん……んー」
お湯が沸騰したかのように自分の顔が熱くなっていく。何故なら、私にとってあの人は自分を形作ってくれた大切な存在で、一番大好きな人だから。
(我が娘ながら可愛い反応。 ほんと、小さい頃の私によく似てる)
「それより、相談って……まさか?」
「そのまさかよ。 紗枝の事だから大丈夫だとは思うけど、ダメな時は諦めてね」
「……うん」
この時、お母さんは私のワガママを──親元を離れて暮らす事を許してくれました。しかも、あの人のいるお家で。
私は、唯一の肉親であるお母さんと離れて暮らすのに、あの人に会える、一緒に暮らせると思うと胸が高まりました。はたから見ると、とても不謹慎です。でも……私はあの人と家族の繋がりと同じくらい大切な約束をしていました。大切な、大切な、約束を。
だから、寂しさよりも嬉しさが
──そして、月日は流れ、四月十五日。
『ご乗車ありがとうございます。 次は
バスのアナウンスが長い旅の終わりを告げ、ホッと胸を撫で下ろしたのも束の間。バスターミナルに着きバスを降りた途端に胸が騒ぎ始めました。
──ドクン、ドクン、ドクン。
い、いよいよ、この日が来ました……うぅ、緊張するなぁ。でも、やっと会えます。
「えへへ」
笑う門には福来る。だから、再会は目一杯の笑顔で彩りますね、お兄さん。
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