勇者の仲間達

 戴冠式たいかんしきと一連の行事が終了した後。

 帰国する王太子らと別れ、エルシーとバートランドはわずかな共を連れて再び旅に出た。


 バートランドの父母の墓に参った後、とある大きな町に二人は立ち寄った。


 かつて勇者の仲間であった武器屋ウォーレスの家。

 バートランドがエルシーをともなって訪れると、赤茶色の髪の女性がいた。

 彼女もまた、バートランドの仲間だった人物である。戦神の神官マデリーンだ。


「マデリーン、久しぶりだな!」

「うん、あんたも元気そうだね。死んだなんて信じてなかったけどさ」


 マデリーンは笑って答えた。


「やっぱり、戦神を開放したのは、あんただったんだね。あたしがいくら頑張っても起こせなかったのにさ」

「いや、そんなことになってるとは知らなかったよ」


 お互いのことについて、ひとしきり話が済むと、マデリーンは真剣な顔で尋ねた。


「キャロルのことだけど……聞く?」


 エルシーは心配そうな目を向けたが、バートランドは落ち着いた態度で続きをうながした。


 かつて、勇者を裏切った少女、キャロルは今、マデリーンとバートランドの妹ロッティと一緒に旅をしている。沈んだ様子だが、以前のような闇の濃さは瞳から消えていた。


「あんたと旅を始めた頃よりも、落ち着いているよ。時々悲しそうな顔はするけどさ。でも、きっともう『向こう側』へ引っ張られることはないよ」


 マデリーンは確信をもって言った。


「あの子のことは君に任せるよ。立ち直ってくれるといいけど」

「それにはもっと時間が必要だね。この国も落ち着いたことだし、これからしばらく外国を回ってみるつもりだよ」

「悪いな、任せきりで。……いつか皆でまた会えるといいな」


 女神官は力づけるように笑う。


「罪人を立ち直らせるのも、神官の役目だからね。何よりも、あいつはやっぱり仲間だからさ。時間はかかるだろうけど、いつかきっとここに戻ってくるよ」


 本来のシナリオでは、最後に魔の力から解放され、故郷で療養りょうようするキャロルの姿があったという。

 魂が抜けたように、うつろな表情で窓を眺めている彼女。回復する保証は無いと言われていたが、皆希望をもって彼女を見守っていた。


 かつて、城で会った彼女の事を思い出す。

 暗い瞳でバートランドに同じ思いをさせたかったと言った少女。


 本当は、理解して欲しかった。

 同じ道を一緒に歩きたかった、ただそれだけのことではないかと―――。


 エルシーは密かに彼女が救われることを願った。




「おにーちゃーん!」


 小柄な少女が部屋に飛び込んできた。

 茶色の髪に、バートランドと同じ濃青の瞳。

 ロッティは好奇心をもってエルシーを見つめた。


「あっ、お姉ちゃん!結婚式には絶対出るから、いつになるのか教えてね!」

「えっ!?」

「お、おい、まだ早いぞ!」


 狼狽うろたえるバートランドとエルシーを見て、武器屋夫婦とマデリーンが笑った。

 無邪気に兄に宣言するロッティ。


「家はわたしが継ぐから、安心して婿むこに行ってね!」

「変な奴に引っかからないように気をつけろよ」

「あぁ、あたしがちゃんと見といてあげるからさ」


 心配そうなバートランドにマデリーンが保証した。




 帰国の日、大勢の人々に見守られながら、エルシーはブラックウッド王国を後にした。


「あ」

「あれは……」


 小高い丘の上に、二つに分けた髪をなびかせて、見守る人影が見える。

 エルシーとバートランドがそちらを見ると、すぐに姿を消した。

 エルシーは穏やかな微笑を浮かべてバートランドを見つめていた。


「帰ろう」


 バートランドは優しく言った。

 エルシーは頷いて馬車に乗り込み、バートランドは漆黒しっこくの愛馬にまたがった。

 このことについて、二人共多くは語らなかったが、密かに希望を抱いて帰っていった。


 彼らの現在の故郷へと。

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