戦乱終結
ブラックウッド王国、王城にて。
玉座の間には、大勢の人々が集まっていた。
今日、王女セシリアが女王として即位する。
淡い金色の頭を低くして、セシリアは
黄金の輝きを放つ冠を、堂々たる偉丈夫が高く
周囲を圧する威厳、並々ならぬ気迫。蘇った戦神だ。
歓声が上がり、新しい女王は微笑んで民の声に応える。
隣国グリーンフィールドからも、国王の代理として王太子アルフレッドが訪れた。
その他の国からも王族や使節達が出席しており、招待客が次々とセシリア女王に祝辞を述べた。
「これで皆安心できるな」
勇者バートランドが嬉しそうに言った。
隣に並ぶエルシーも頷いた。
セシリアは彼らを
セシリアが戦神の後ろ盾を得たことにより、反対派であった将軍も新しい女王に忠誠を誓うことになった。
長い戦乱の時が終わり、ようやくブラックウッド王国も安定に向かうであろう。
「おぉ、勇者か。魔王
大きな盃になみなみと注がれた酒を上機嫌であおりながら、戦神が言った。
輝く鎧に全身を包んだ大柄な偉丈夫で、厳つい顔でありながら美青年であった。
「お主にも苦労を掛けたな。今後は我が皆を守ってゆくから安堵するが良い。この武器も手元に戻ってきたが、今のお主には、その剣の方が似合っておるようだ」
バートランドは微笑んだ。
新しい女王が戦神の
聖女から贈られた銀色の首飾りが胸元で輝いている。
セシリアはエルシーに礼を述べ、「国宝として子孫代々大切に伝えてゆきます」と笑顔を見せた。
エルシーは優雅にお辞儀をして、祝いを述べた。
「おめでとうございます、女王陛下」
「ありがとう。婚礼にもまたお招きしますから、ぜひいらしてくださいね」
セシリアは国内を統一するために、戦神の妻となることが決まっていた。
地上での生を終えた後は、神々の一員として天空に招かれる。
「神妻となるのはとても名誉なことです」
決意を秘めたセシリアの表情にエルシーもバートランドも
戦神の復活により、獣人達も再び人と共に暮らすことができるようになっていた。
「世継ぎが一人前になるまでは、我も地上にいることにしたぞ」
「まぁ、そのようなお話はまだ早いですわ」
セシリアがほんのりと赤くなった。
長い戦乱で荒れた国内を立て直すには、長い月日がかかるだろう。
しかし、女王とその夫の存在が民を守っていくに違いない。
来客の中には魔王メイヴィスの姿もあった。
純粋な魔族達は、皆魔の領域へと帰っていった。
「原作」には無かった戦神の復活により、人の領域では暮らしにくくなったためだ。
メイヴィスとセシリアは、魔族の領域と人間の国の間に混血の人々を中心とした自治区を
「形は変わったが、ここから我らの理想を実現してゆく」
メイヴィスは力強く宣言する。
エルシーもバートランドも彼らの協力に礼を述べ、理想の実現を祈った。
人々の中に珍しい服装……「学校の制服」を来た少女がいる。
その後「でも、一度はドレスも着てみようかな」と年頃の少女らしい顔を見せた。
「あいつも、やっと帰る気になってくれたんだ」
真紀は嬉しそうに笑った。
そんな彼女の様子を嬉しく思いながら、エルシーは不安を感じていた。
「あの人は大丈夫なの?」
真紀は困ったように微笑む。
「前はあんなじゃなかったんだよ。きっと立ち直ってくれると信じてるから」
「そうじゃの。帰る前に少々
にやりとメイヴィスが人の悪い笑みを浮かべる。
「お主らの世界もまた厳しい時代であろう。今のままのあ奴では不安じゃ。これからの時代を生きていくために、もっと心身ともに鍛える必要があるな。……あ奴を堕落させた責任の一端はわらわにあるからの」
ローザも楽し気に語る。
「どんなに無能な者でも、使いものになるよう
「うむ、楽しみじゃの」
「……大丈夫かなぁ、あいつ。まぁ、私は最後まで付き合うけど」
真紀の言葉にエルシーは微笑した。
「幸せを祈るわ。でも、もう二度と会えないかもしれないのね」
エルシーの言葉に真紀は寂しそうな顔をしたが、すぐに笑顔を見せて
「こうして会えたんだもの、またどこかで会えるような気がするよ。別の世界に転生する話が私の世界には多いし」
「私の女神様がきっと、また会わせてくれるんじゃないかしら」
二人声を合わせて笑い、笑顔で異世界の友人とエルシーは別れた。
柱から、ふさふさした尻尾がのぞいていた。
「?」
不思議に思ったエルシーが眺めていると、反対側に小さな獣の耳が出てきた。
そっと顔をのぞかせたのは、獣人の少女、クー。
「エルシー?」
バートランドがこちらを向いた途端、獣人少女は柱の陰に隠れてしまった。
「勇者殿に言いたいことがあったのではないか?」
女騎士がクーに声を掛ける。フレデリカは、今では普通の鎧姿になっていた。
クーは難しい表情で、再び柱から顔をのぞかせると、突然飛び出し、バートランドの横をすり抜けて外へ出て行った。
「あ」
バートランドの手の中に、小さな紙包みがあった。
中を開くと、赤い色をした丸い木の実がいくつも入っていた。
「あの子がよく食べていたものですね。美味しくて栄養があるものです」
女王付きの侍女エイダが教えてくれた。
紙にはたどたどしい筆跡で、「ありがと」と書かれていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます