逆ハー詐欺の謎
落ち着いたところで、二人は今回の逃亡劇の原因……逆ハー詐欺について話し合うことにした。
「『乙女ゲーム』で逆ハー詐欺が起こることがまずあり得ないのです。と言っても、少女漫画などでも全員が離れていくということはないですけどね。本来はメインヒーロー以外の男をヒロインから遠ざけるのが目的ですから。この世界が悪意ある者によって『乙女ゲーム』とは違う世界に変わりつつあるのでしょう」
ナナミは不安を感じながら聞いていた。
王太子以外の者が自分から離れていくのはまだわかる。だが、既に思いを伝えあい、幸福に過ごしてきたアルフレッドが突然去っていくのは確かに不自然だ。
ルビィは考えつつ語る。
「この世界の聖女には、ライバルもいないし、嫉妬でヒロインを攻撃してくる女も出てこない。もちろん婚約者のいる攻略対象は一人もいませんね。だからといって安心はできません。悪役令嬢物でヒロインざまぁするのが大ブームになりましたから」
「嫌なブームね」
「悪役令嬢以外にも、悪役令嬢を
敵の多さにうんざりしつつ、ナナミの内面にはまだ、「聖女の盾」の皆を信じたい気持ちがあった。
「急いで逃げてしまったけど……本当に処罰されるのかしら」
「ヒロインが悪役令嬢のライバルになれば、高確率で断罪されます。『悪役令嬢物』の世界で悪役令嬢以外の女が逆ハーやるのは万死に値する罪ですからね。特に逆ハーヒロインは性悪女と断定されて確実に社会から抹殺されます」
「そんなもの狙ってなかったのに……」
ナナミはうんざりした。
時間の余裕が無いというのもあって、王太子以外の攻略対象の誘いはできるだけ断り、会うのを必要最低限に留めていたはずだが、なぜか皆短期間で好感度が最高値になっていた。
「こんなに上がるはずがないんですが」とルビィも首を傾げていた。
「『狙ってないから無罪』というのは、主人公の特権ですから」
天然や鈍感、難聴(告白まがいのセリフを聞き逃す)もセットでテンプレヒロインの完成である。悪役令嬢さえも、主人公になればテンプレヒロイン化してしまうケースが多い。
何だかんだ言っても、女性には人気のあるテンプレなのだろう。
「これで『悪女』とは言われたくないわ」
ナナミは
だが、『聖女の盾』の皆のことを思い出すと、気持ちが沈んだ。
「皆いい人だったのに」
ナナミをからかったり、最初は聖女を支援することに難色を示した者もいたが、皆よく彼女を手助けしてくれた。ナナミをいつも気遣い、魔物などから守ってくれ、聖女の使命を遂行するために一緒に頑張ってきた。
そのような彼らが……。
既に引き返せない所にきてしまったとナナミは実感する。
「力の暴走は仕方ないとしても、そのまま逃げたら本当に悪いことをしたと思われるのではないかしら」
「王太子を倒した時点でアウトでしょう」
「……そうよね」
「生存第一に考えれば、やむを得ない状況です。捕まったら終わりですからね。そうなったら、私には助けられませんから」
「…………」
ナナミはそれでも罪悪感を捨てることができなかった。
そしてもう一つ、引っかかることがあった。
「一つ気になることがあるんだけど」
ナナミは、王子との会話を思い出して言った。
「王太子殿下は『違う』と言ったのよ。他の人は恋じゃなかったと言ったのに」
「なるほど。王子に本命がいるのは確実ですね」
「……やっぱり、そうなるのね」
ナナミは悲痛な面持ちで俯く。
苦い気持ちで彼女は認めた。自分への想いが消えたのは王子も同じだったのだ。
彼だけは違うと思いたかったが…………。
「今の好感度は、前の聖女のもの?彼女が帰ってきて主役の座を取り戻した?女神様の決定を無視して?」
腕組みをしてむむむとうなりつつ、ルビィは考えた。
「前の聖女が戻っていないとしたら、何故好感度がリセットされたのか……嫌な予感がします」
「いくら考えてもわからないわね。それより、これからどうするかを考えましょう」
組んだ腕をほどいて、ルビィはナナミを見た。
「そうですね。当分、隠れていた方がいいでしょう」
「食料とか、必要な物は十分
国から出ず、ここに立て
魔女の力で守られていても、向こうには優秀な魔術師もいれば、聖女には及ばないが高い法力を持つ大司教もいる。
「罠でも作っておきます?」
わくわくした様子で提案するルビィに、ナナミはあきれ顔で答えた。
「……警報を置いておきましょう」
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