レイヴン・クロウ
「レイモンド・フィン・エルドラド、シルヴィア・クライオジュニクの両名から、お前に異端告発があった。よって、お前には異端審問を受けてもらう。拒否権はない……大人しくついてきた方が身のためだぞ」
「え…………」
理解が追いつかない。レイモンドとシルヴィアが俺に異端告発を。なんの悪夢だろうか。しかし残念ながら、これは紛れもない現実だ。悪名高い異端告発を受けたものが生きて戻ってきたことはない。
つまり……俺は死ぬのか?
全く実感が湧かない。頭の中で逃避している。まだ何とかなるんじゃないか、何とか出来るんじゃないか。ぎゅっと目をつぶって開けば、寝台の上で目覚めるのではないか。ありえない考えがぐるぐると通過していく。
そしてレイモンドは分かるが、シルヴィア。そんなにも俺が憎かったのか。なんの危害も加えたことはないのに……いや、そんな事に意味は無い。聖氷教において俺は生きることすら許されない。
俺が動揺のあまり動けないでいると、先に驚愕から回復したらしいアルフェが進み出て叫んだ。
「そんな……エルラーンが何をしたって言うのよ!」
「存在自体が罪だ」
目の前の黒フードのケット・シーがあっさりと答えた。
「見ろ、あの目の色を。まったく嘆かわしい。さながら長耳共のようではないか!しかもこいつは炎の魔法を使うとか。恐ろしい……きっとサラマンダーのスパイに違いない」
「な、そ、そんな理由で……」
アルフェが絶句すると、黒フードは憤慨したように彼女に食ってかかった。
「そんな理由?お前は聖氷教を、トワイライトファーレン様がお決めになったことをそんな理由と言うのか。今すぐ取り消せ!さもないとお前もアヴィータ行きだぞ!」
「アルフェ、やめろ!」
俺が処刑されるのはともかく、彼女は駄目だ。なにせ、アルフェは本当に何もしていない。外見も魔法も、きちんと「ケット・シー」である。一緒にアヴィータにぶち込まれて処刑される事はない。自分などのために、そんなくだらない理由のために、アルフェに死んで欲しくない。
しかし、こちらに振り返ったアルフェの瞳は静かに決意の炎を燃やしていた。
「いいえ、取り消さない。取り消さないわ!」
「アル……」
「エルラーン」
にわかに殺気を強めるレイヴンたちを無視して、彼女は俺の言葉をはっきりと遮った。
「私が何をするかは私が決めるの。私は許せない。瞳の色、髪の色、発現した魔法、そんなの個人それぞれなのに、他に危害を与えていないのに、『それだけ』で同じケット・シーを殺す。その精神が許せない。そんな事しか出来ないなら、聖氷教なんてっ」
アルフェは覚悟を決めるように息を吸い込んで。
「クソ喰らえよ!」
「なんだと…………?」
先頭のケット・シーが怒気を隠さずに白銀の剣を抜いた。続いて十一の抜刀音が雪原を渡っていく。
「こいつも反逆者だ!二人まとめてひっ捕らえろ!!」
その命令に従ってケット・シーたちが飛びかかってくる。数が多い上に連携が完璧だ。それに比べてこちらは二人、直接戦闘能力が低いアルフェを守りながら戦わなければならない。
ああ、これは駄目かもしれない。
リーダーらしきケット・シーの剣を受けながら思ってしまった。しかし生きるための努力はしたい。だって死にたくない。まだ死にたくない。それに自分などよりも、なんとかしてアルフェだけは助けたい。
まずい、大部分が背後に抜ける。
『夜闇切り裂き夜雀が哭く、響け……響け……!』
彼女の魔法が響き渡った。不安と不気味さを感じさせるその旋律は、レイヴンたちの動きを鈍らせる。
「
『嵐風纏いて夜雀が飛ぶ、舞え……!舞え……』
ごうっ!と風が鳴り、凄まじい勢いで炎が燃え上がる。舐めるように雪原に広がっていく炎に危機感を覚えたのか、アルフェを先に仕留めようとケット・シーたちが殺到してくる。
俺は何とかアルフェを守ろうと
三人目のケット・シーの利き腕を切り落とした瞬間、左右から波のように斬撃と魔法が迫ってくる。必死にかわすが、アルフェに意識を割いている分身体が思うように動かない。
鋭角に曲がって飛んできた無数の氷の礫の一つが、俺の左肩に直撃した。
「ッ……!」
痛みに動きがほんの一瞬鈍くなる。そして精鋭揃いのレイヴンはその隙を見逃さなかった。後頭部に鋭い衝撃が走り、ふわ、と身体が浮くような感覚に襲われる。実際には、俺の身体は地面へと落下しているのだが。
ぷつ、と唐突な意識の断裂と共に、世界が暗転した。
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