第49話高校生活が始まりました
いよいよ高校生活が始まった。私は、温室の作業があるので部活は楽な料理部に入った。料理といっても主にお菓子を作る。しかも活動は週一なので楽だ。美香ちゃんは高校でも陸上部に入った。岡本君は剣道部に、俊介はバスケ部に入った。それそれ部活と勉強の両立に頑張るらしい。すごいなあと思ったが、彼らならきっとできるだろう。ずいぶん上から目線だがそう思った。
ちなみに勉強は、皆すごく出来る。みんながむしゃらに勉強をしていますって感じではないのに出来る。私は奇跡で受かったほうなので、毎日の勉強についていくのがやっとだ。
私以外の三人は、部活が朝練もあったりと朝早いので最近では私一人で登校している。ちなみにうちの学校は、放課後の部活は一時間だけと厳しく決められているせいか、皆朝練を頑張っているのだ。
私の部活は、料理部で料理が出来るまでなので、少し遅くなる時もある。毎週金曜日活動で、今では日ごろ勉強でくたくたの私の唯一のオアシスだ。
「みんな、お待たせ!」
「おう」
「お疲れ」
「ことちゃんいい匂いする!」
私が金曜日は料理部で遅くなると聞いて、美香ちゃんが金曜日は一緒に帰ろうといってくれた。私の部活が終わるまで図書室で勉強しているからといってくれたのだ。はじめこそ遠慮したが、いつもいっしよに帰れないので「待ってる」といってくれた。それを聞いた俊介と岡本君も同じように待っていてくれることになり、三人は図書室で勉強しながら待っていてくれる。
「じゃ~ん!」
今日は、部活のみんなでパウンドケーキを作った。私が鞄から今日部活で作ったパウンドケーキを取り出すと、ぷ~んと甘いいい匂いが漂ってきた。夕方に嗅ぐと余計お腹が空きそうだ。
「みんなの分もあるよ」
そういって私は、待っててくれた三人にひとつづつきれいに包装されたケーキを渡した。これには理由があるのだ。
「これ、四つに分けると一口サイズになっちゃうなあ~」
初めての部活が終わって帰るとき、私がふとこぼした言葉を部活の一人の子が拾った。
「笹竹さん、誰かに配るの?」
「うん、待っててくれる三人に配ろうかなって思って」
初めての部活で作ったのは、ホットケーキサンドだった。ホットケーキに生クリームと果物をサンドしたものだ。作った後、みんなで試食して残ったものをおのおの持ち帰る。
「配るのってもしかして葉ヶ井君と岡本君?」
部員の一人である同じ一年生の子が聞いてきた。まだ入学して日が間もないにもかかわらず、俊介と岡本君は目立っている。美香ちゃん曰くもうファンがいるらしい。
私があの目立つ二人と一緒にいたところを見たことがあるのだろう。
「うん、そう」
「いいなあ~。一緒に帰ってるんだよね~」
他の子達も私のそばに寄ってきた。
「ねえ、これあげるよ。食べてもらって」
そういって皆が、今日作ったサンドを差し出してきた。
「いいよ。悪いから」
私はそういったのだが、皆いいよいいよといって押し付けられるように、もらう事となった。それからだ。美香ちゃんの事も話した私のために、毎回三つ余分に作ってくれることとなった。しかも渡しやすいようにときれいにラッピングまでしてくれる。私は、ありがたく受け取ることにした。
「直接渡すといいよ」
私がそういったのだが、皆遠慮していまだ直接渡していない。だけど申し訳ないので、部活のみんなの名前は、三人にちゃんということにしている。
「この前、直接岡本君からいつもありがとうって言われちゃった!」
「私は葉ヶ井君から!」
「私は田野村さんからお礼言われちゃった!」
有名人と化した三人からお礼を言われて嬉しそうにしている部員の子達は、ラッピングに余計熱が入るようになった。美香ちゃんもふたり同様今では、有名人の仲間入りだ。男子生徒からよく熱のこもった目で見られているのを私は、すぐそばで目撃する毎日だ。
最近では、先輩たちも協力的になった。どうやら俊介たちの噂が上級生にまで広まっているらしい。最近では俊介たちの食べた感想まで聞きたがる。
「ねえ、どうだった?」
「おいしいって言ってました」
私は、どれも同じことを言う様にしている。前に一回「これ好みだ!といってました」と言ったら、次もそれを作ろうとしたのだ。私としては、やはりいろいろ作りたいし、いろいろ食べたいのだ。
「うまいな」
「うんうん確かに」
俊介と岡本君は、今日のケーキをほおばりながら帰り道を歩いている。美香ちゃんはさすがにしていない。家に帰ってからのお楽しみにしているらしい。
「今日のパウンドケーキは、うまくできたよ」
私が言うと、もぐもぐ食べている俊介が、うなづいている。岡本君も同様だ。
「また会ったらみんなにお礼言っておいてね」
私はこの一言を忘れない。この三人には、言っていないことがある。実は三人に配るものは、その日一番うまくできたものをみんなで選んで、ラッピングしているのだ。その選ぶときのみんなの真剣な表情を本当だったら、この三人にも見せてあげたいぐらいだ。
「これなんかどう?」
「そうねえ、でもちょっと色が焦げすぎじゃない?」
「じゃあこれは?」
「反対にこれは焦げ目が少なすぎない?」
「じゃあこれは?」
「いいわねえ、決定!」
みんなが目を皿のようにして真剣に吟味に吟味を重ねているうちに、余熱が取れていい具合にラッピングできるのだ。だけど俊介たちは、そんなみんなの努力をあまり気にしていない。というか全然気にしていない。いつもラッピングをべりっと剥がすと、すぐに口の中に入れてしまうからだ。
この事は、反対に部活のみんなには内緒にしている。もしそれを知った日にはみんな涙目になってしまうから。
私だけの秘密だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます