第47話俊介たちも加わりました
新聞紙の前に仁王立ちしていたのは、俊介と岡本君だった。どうやら先ほどの声は私たちに向けてのものであり、この二人だったようだ。
「どうしたの?」
「ことんち行ったら、田野村と花見に行ったっておばさんから聞いてさ」
「僕は、俊介の自転車姿を見て声かけたんだよ。そしたら笹竹さんたちが花見をしているらしいって聞いたから」
「そうなんだ。で、俊介なんか用だったの?」
私は、俊介が家に来たと聞いて何か用があったのかと俊介に聞いてみた。
「参考書買いに行かないかと思ってさ」
「な~んだ」
「で、なんで新聞紙の上なんだ?」
俊介は新聞紙の上に座っている私をじーっと見た。
「忘れちゃったんだよ。レジャーシート持ってくるの」
私が当たり前の様にそういうと、
「それでか。やっぱりだろ?」
俊介は岡本君をほらっという顔で見ている。岡本君は俊介に言われて、少し顔を赤くした。
「何?」
私は、二人のその様子に気になって岡本君を見た。岡本君は少し小さな声で私たちに言った。
「遠くでよくわからなかったんだよ。俊介があそこにいるの笹竹さんたちだって言うから、僕は違うよって言ったんだ」
「なんで?」
私が岡本君に再び聞くと、岡本君が口ごもった風だった。そこへ俊介がどや顔で言ってきた。
「岡本は、今時新聞紙の上に座ってるのはおばあちゃんたちだけだっていうんだぜ。俺がことなら絶対やるって言ったのに」
俊介はそういって笑い始めた。やっぱりだろう!と岡本君に言っては一人笑っている。岡本君は私の厳しい視線に目をそらしていた。
「なあ、いっぱいないか?それふたりで全部食べんの?」
やっと笑いが収まった俊介が、新聞紙の上にあるサンドイッチやらおにぎりやらを指さした。
「当たり前じゃん」
私は、先ほどの俊介と岡本君の発言に怒っていたのでつっけんどんに言った。ちょうどその時風が、桜の木を揺らした。桜の花びらが、その風に乗って新聞紙の上にはらはらと落ちてきた。
「美香ちゃんきれいだね~」
私は俊介たちが言ったことも忘れて、桜の花びらが舞い踊っているのを見入ってしまった。
「葉ヶ井君と岡本君、よかったらここで一緒に食べない?新聞紙の上だけど」
桜の花に見入っている私をよそに美香ちゃんが、俊介と岡本君にそういった。しかしさすが美香ちゃんだ。ちゃんと先ほどの報復を忘れていない。
「ねえことちゃんいい?」
「美香ちゃんがいいなら。ちょっと買いすぎちゃたもんね。新聞紙の上でよかったらどうぞ」
私も美香ちゃんに負けずにそういってやった。
「じゃあ」
すると、俊介は悪びれもせずにすぐに靴を脱いでどかっと座った。
「失礼します」
岡本君は先ほどの失言でちょっと申し訳なさそうにしながらも座ってきた。
「どれ食べる?」
みんなが座ったところで、私がみんなに聞いた。多めに買ってしまったが、四人だったらちょうどいい具合だろう。すべて新聞紙に並べて、思い思いに好きに取ってもらい食べることにした。飲み物は、念のためのと俊介と岡本君が買ってきてあり、それを飲むことにした。私と美香ちゃんが買ってきたものはただのお茶だったので、俊介が差し出してきた紅茶は嬉しかった。
デザートも多めに買ってしまったので、ちょうどよかった。桜餅4個と桜アンパン2個を四人で分けた。
「ねえ、この桜餅おいしいね~」
「うん、ことちゃんいいの選んだね」
「確かにこの桜餅、桜の葉のいい香りがするね」
岡本君はそういって桜餅を包んでいる葉の香りをクンクンかいだ。俊介は一口で食べてしまったので、「そうだったか~?」といいながら、桜アンパンをかじっていた。
お腹がいっぱいになって、やっと本来のお花見をすることにした。
四人で桜を眺めた。
「この風で、明日には散っちゃいそうだね」
「ほんと。今日は風がないかと思ったけど、川沿いだと結構あるんだね」
岡本君がふと漏らした言葉に、私が同意した。その時だ。また風が吹いて桜の木の枝をゆさゆさと揺らした。桜の花びらが、ひらひら風に乗ってこちらにやってきた。まるで花吹雪だ。私は思わず手を広げて桜の花びらを捕まえようとした。こんなに降ってくるなら一枚くらい捕まえられるかと思っていたが、手のひらには何も残っていなかった。
「あ~あ」
私が自分の手のひらを見てがっかりした時だ。俊介が私に手を伸ばしてきた。私が、えっと思う間もなく俊介は私の髪についていた桜の花びらをとった。手のひらでは取れなかったが、代わりに髪の毛がキャッチしてくれたようだ。
「ほらっ、これ」
とった花びらを私に差し出してきた。私はその花びらを手のひらで受け取った。桜色のきれいな花びらが手のひらにのっている。
私がその花びらを見ていた時だ。急に視線を感じた。視線の先を見ると、美香ちゃんと岡本君が私と俊介をじーと見ていた。
「うん?」
私がふたりに疑問符を投げかけると、二人は申し合わせたかのように何も言わずまた桜の木を見始めた。私は今度は俊介を見た。俊介は不思議な行動をしていた。手を挙げたりおろしたりまるで準備運動をしているかのようだった。
「何してるの?」
俊介は、私に答えることもなく準備運動をやめて先ほどのふたりと同じように桜の木を黙って見始めた。私もみんなが真剣に見ている桜を見ることにした。目の前では桜の花びらが風に吹かれて、また舞い上がってダンスしているかのようだった。
桜は枝が風に揺れるたび、桜色のきれいな花びらで春をそこかしこに届けてくれていたのだった。
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