第46話お花見です
次の日、美香ちゃんから電話があった。
「ことちゃん、今からお花見に行かない?」
「うんいいよ。どこ行く?」
暇だった私は一も二もなく大賛成した。今日は天気もいい。花見をしながら、お弁当を食べるのもいいかもしれない。
「あの桜堤の堤防は?」
「いいねえ、じゃあそこでお昼食べない?」
「じゃあ後30分ぐらいでことちゃんちに行くね。コンビニに寄ってお弁当でも買っていこうね」
「うん、待ってるね」
桜堤の堤防とはこのあたりで有名な桜の花見スポットだ。川の堤防沿いに桜が何百本も植わっている。花見の時期には思い思いの場所でお昼ご飯を食べたりする人たちが多い。ちなみにここは夜間のライトアップはなく街灯しかないので、夜花見をする人たちはいない。
私は急いで支度をした。母に美香ちゃんと出かけることを伝えた。
「気を付けてね」
母の声を後ろに聞きながら、私は外に置いてある自転車を出しにいった。桜堤の堤防は、歩いていくには少し距離があるのだ。私がタイヤの空気をチェックしていると、美香ちゃんがやはり自転車でやってきた。
「お待たせ~」
私たちはまずお弁当を調達しに、近くのコンビニに向かった。コンビニはちょうど店員さんがお昼用のお弁当やおにぎり、サンドイッチを棚に並び終えたところで、棚には所狭しとお弁当たちが並んでいた。
「ことちゃん、何にする?」
「そうだね~。悩むよね~」
私たちはしばらく棚の前で悩んだ挙句、気が付けばサンドイッチやらおにぎりやらおまけにデザートまで買っていた。
ふたりでレジでお金を払う時には、お互いに顔を合わせて苦笑いがでてしまった。店を出るとすぐに美香ちゃんが言ってきた。
「ことちゃん、買いすぎちゃったね」
「確かに~。でも大丈夫! 今から桜堤まで結構あるし、着く頃にはお腹がすくから、これくらい食べられる!」
私が断言すると、美香ちゃんも大きくうなづいた。でもきっと心の中で私が今思っていることを美香ちゃんも思っているだろう。でも賢い美香ちゃんは決して口にはしないだろうが。
やっぱりちょっと買いすぎた!
私たちはいっぱいの食べ物が入った袋をかごに入れて、さっそく目的地に向かって走り出した。空は青空で雲一つない。さわやかな暖かい風が吹いている。まったくもって今日は花見日和だ。
しばらく走ると、川が見えてきた。先のほうに薄桃色の景色が広がっている。
「美香ちゃん! 桜満開だよ!」
私は、ペダルをこぐ足に力を込めた。私たちのようにお昼をここで食べようという人達が大勢いた。思い思いのところでレジャーシートを敷いている。私はどこがいいかなとあちこち見ていると、美香ちゃんが隣に来ていた。
「ことちゃん、さっきすごいはやかったよ。びっくりした」
美香ちゃんは、息を切らしている。
「そう? それよりどこで食べよう」
「ねえあそこは?」
美香ちゃんが指さしたところは、桜の木の下ではなかったけれど、近くに満開の桜の木が何本もあった。ちょうどそこには人もまだいない。あそこならのんびり食べられるし、桜の花も見放題だ。
「いいね。あそこにしよう」
私は、急いでまた自転車をこいだ。
「待ってよ~」
後ろで美香ちゃんの声がした。私は、先ほどの場所について美香ちゃんを待つことにした。美香ちゃんは「もう~」といいながらも笑いながらやってきた。ふたりで自転車を降りる。その場所に言った時だ。
そこで気が付いた。
「ねえ、レジャーシート忘れちゃったね」
私が言うと、しっかり者の美香ちゃんも忘れていたらしく「あっ」といった。私は食べ物が入った袋を見つめた。それをすかさず見た美香ちゃんが言った。
「ことちゃん、もしかしてこの袋の上に座る?」
「うん、力づくて半分に切ったらどう?」
「切れるかなあ?」
そのまま座ることも考えたが、おととい降った雨で地面が乾いているとはいいがたい。どうしようかと考えた時だ。
「そうだ! いいのあった!」
「何が!」
美香ちゃんがそういうのを後ろに聞きながら、私は急いで自転車に駆け戻った。かごがおとといの雨で濡れていたので、新聞紙を下に敷いていたのだ。かごの下を見ると確かに新聞紙があった。新聞紙をとり出すと、新聞紙は濡れていなかった。私は新聞紙を持って美香ちゃんの元へ走った。
「新聞紙あったよ。これ敷こう!」
「いいね、よかったね」
私たちは新聞紙を敷いて、その上に座ることにした。周りはみんなレジャーシートだったけれど、私と美香ちゃんは大満足だった。風があまり吹いていないといっても新聞紙がパタパタとなる。私は自分の靴と美香ちゃんの靴を四隅に置いて重しにした。
買ったものを袋から出していく。
「結構買ったね」
「うん。デザートもあるね」
袋には二人では食べきれないほどの量のおにぎりやらサンドイッチそしてデザートが入っていた。どれから食べようかと美香ちゃんと言い合っていた時だった。
「お~い!」
「お~い!」
何やら声がする。はじめ自分たちにとは思わずに無視していたのだが、声はどんどん近づいてくる。
「おい! 無視するなよ!」
すぐそばで聞こえた聞き覚えのある声に、びっくりしてそちらを見ると俊介と岡本君が、敷いてある新聞紙の前に仁王立ちしていた。
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