第44話教科書販売会場です
私たちは書店の中に入っていった。入るとき、俊介や岡本君そして美香ちゃんを好奇の視線で見ている人たちが大勢いた。今日の教科書販売では、私が入る学校以外の学校の教科書も販売している。美香ちゃんたちを見ている人たちは、美香ちゃんたちがどの学校の教科書を買うのか興味深々なのだ。
「おいこと、ここに電子辞書の見本がいくつかあるぞ」
俊介が参考書を見ている私を呼んだ。視線が私に集中した気がした。しかし俊介が呼んだのは、平凡すぎる私だったせいか視線はすぐに他へと移動していった。
「結構たくさんあるね」
「ほんとだ。どれがいいかな」
俊介が私を呼んだのを聞きつけて、ほかの参考書を見ていた美香ちゃんと岡本君も飛んできた。
「ねえ、こんな小さな辞書にいっぱいはいっているねえ」
「ほんとだね、ことちゃん」
私は、見本としておかれている電子辞書の後ろにある説明書を読んでびっくりした。美香ちゃんに指をさすと、美香ちゃんも驚いたようだった。
「ここまで来ると、もう好みだね」
岡本君の言った言葉に私たちは皆うなづいた。
「おいこと、どれにするんだ?」
「う~ん、これかな」
「ふう~ん」
俊介に聞かれて、私は文学作品や植物図鑑などが入ったものを指さした。いろいろな本がたくさん入っていてお得感がある。俊介は私が指さしたものをまたよく見はじめた。
「ねえ、美香ちゃんは?」
「私はこれ!」
美香ちゃんが指さしたのは、私がいいなと思ったものとは違うメーカーのものだった。
「これね、翔也君が買ったものと同じなの~」
もう美香ちゃんは、はじめから決めていたらしい。
「じゃあみな、決めたなら教科書販売のところに並ぼうか」
「そうだね」
私たちは岡本君の言葉を聞いて、教科書販売の列に並んだ。申込書を出すと、店員さんがその学校の教科書を用意してくれるというものだ。あとは参考書や電子辞書も希望を言えば、それもそこで買えるらしい。
私たちは教科書が重いので、参考書は後日買うことにした。教科書を受け取ると、ずっしりとした重みを手に感じた。それと同時に高校生活に思いをはせてちょっとだけ背筋が伸びた。
「ねえ、あの人達青竹高校なんだね~。頭よさそう~」
「あの二人、かっこいい!」
「ほんとかっこいいかも!あの子もかわいくない!」
私が先に会計を済ませて皆が来るのを待っていると、近くで声がした。今まさに会計をしようとしている俊介や岡本君そして美香ちゃんを見ている子たちが多い。
私も改めてギャラリーの一人として、俊介たちを見た。確かにほかの人達より抜きんでてかっこいい。岡本君は俊介とは違うタイプのかっこよさを発揮している。美香ちゃんもかわいい。
「おまたせ~」
まず美香ちゃんが私のもとにやってきた。そのあとを続いて俊介と岡本君がやってくる。私は、すかさず俊介と岡本君の教科書が入っている手提げ袋を覗いた。
私としては、彼らがどの電子辞書を選んだのか興味深々だった。入っている箱を見ると、二人とも美香ちゃんが選んだ電子辞書だった。
私はそれを見て自分の選択に焦り、今度は会計の列を見始めた。電子辞書を袋に入れる店員さんの動きをじーと見た。しばらく見ていたが、私が選んだ電子辞書の人も結構いる。ほっと一息ついた時だ。
「どうだった?」
俊介が面白そうな顔をして、私に声をかけてきた。私はそこで初めて、私を除く三人が私の様子をずっと見ていたことに気が付いた。
「みんな、どんな電子辞書を選ぶのかと思って。でも私と同じ電子辞書の人もいるみたいで安心した」
私が思わず言い訳がましく言ってしまうと、岡本君が強くうなづいた。
「確かに、自分だけ違うの選ぶと気になるよね。たまたま僕らは同じの選んだけど、笹竹さんが選んだものと相そう大差ないよ。大丈夫」
さすが岡本君だ。いつも学級委員をやるだけの事はある。私の心配をすぐに察してくれるとは。私は改めて尊敬のまなざしで岡本君を見た。
「ことってさ、絶対お買い得感だけで選んだだろ?」
俊介がにやって笑って、私が選んだ理由を言い当てた。
「そんなことないよ!」
「ほんとに違うの!」
ばれた私は必死で言い訳したのがいけなかったのか、俊介はわかったわかったという顔をしている。余計腹が立った私が、俊介に言い返していると、
「ねえちょうどお昼になるから、どこかで食べて帰らない?」
美香ちゃんが話題を変えるべく、今だ怒っている私に聞いてきた。
「お昼?いいねえ」
さっきまで俊介に怒りを感じていた私だが、お昼という言葉で途端にお腹が好きてきた。
「どこ行こうか」
岡本君も乗ってきた。
「バーガーでいいんじゃねえ」
「今、期間限定のあるよ!」
私はリュックをあさり、新聞の広告に入っていたチラシを取り出した。
「おお、いいね」
「ことちゃん、ぐっじょぶ」
「さすが食い意地の張っていることだけあるね~」
岡本君と美香ちゃんは賛成してくれたが、俊介は一言多かった。私は、チラシのクーポンを俊介だけ使わせるのをやめようと思ったのだった。
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