第39話 俊介は保護者気取りです
俊介が岡本君にいった。
「おれたち帰るからさ」
「そうか、じゃあ僕も一緒に行こうかな。笹竹さんちに教科書販売いつにするか聞いてみないか?」
「えっ?」
つい私は岡本君の言葉に驚いて言葉を出してしまった。しまったと思ったが、仕方ない。どういおうかと思った時だ。
「今日はだめだぞ。こと、腹痛だってさ。今寝てるらしい。ねえそうだよね?」
「あっ、うんそうそう」
俊介が私を向いて同意を求めてきたので、私は激しく同意した。
「そうなの?笹竹さん大丈夫なのかなあ?」
岡本君が心配そうに私に聞いてきた。
「大丈夫、大丈夫。ただの食べすぎだから」
俊介が私の代わりに答えていた。しかし私だって一応乙女なんだからもっとましな嘘つけよと心の中で思ったが、仕方なく笑い顔を作ってうなずいておいた。
「そうなんだ。よかったね、ただの食べ過ぎで。ラーメンでも食べすぎたのかなあ、ラーメン好きみたいだもんね」
岡本君は俊介の私の食べ過ぎ説に何の疑いも持っていないらしく、反対に食べすぎの原因の食べ物まで推理していた。それを聞いた私が思わず苦々しい顔をしたのを見た俊介は、ひとり大爆笑した。
「どうしたんだ?俊介。何がおかしいの?」
岡本君は急に大笑いしだした俊介をいぶかしげに眺めていたので、私はふたりを置いてひとり帰ることにした。私がひとりすたすた歩き始めると、俊介の声が後ろからした。
「待って、一緒に行こう。どうせ一緒の方向だし。じゃあな岡本!教科書販売の日、また連絡するよ」
「ああ、よろしく。また!」
岡本君は私にも挨拶をしてくれて自転車で引き返していった。
「よかったなこと!」
そういった俊介の顔を見ると、いい仕事したぜ!という得意顔をしている。
「でも、食べ過ぎって言わなくてもいいじゃん」
「岡本だって納得してたぜ、やっぱりあれが一番説得力あったんじゃないか」
「でも、普通に風邪っていえばいいじゃん」
「さっきのいい案だと思ったのにな。岡本だって言ってたじゃん」
「でも~」
「でもでもって、やっぱまだ岡本が好きなのか?」
急に不機嫌そうな声を出した俊介をちらっと見れば、声のとおり不機嫌そうな顔をしていた。
「そんなことないけど、もう~俊介にはわかんないの。乙女心がわかんないだよ、俊介は少しも!」
「なんだよ、その乙女心ってさ。別に岡本の事もう好きじゃなければどうだっていいじゃん。じゃあこと、岡本がことんちいってよかったのかよ」
「そうじゃないけど~。じゃあ例えば、美香ちゃんに俊介が大食いのし過ぎで腹痛で寝てるっていってもいいの?」
「別にいいよ」
「もう~知らない!」
私が俊介にむくれた顔をしてすたすた歩いていると、俊介が慌てて飛んできた。
「悪かったよ」
「もう~しょうがないなぁ」
俊介が謝ってきた。俊介の顔を覗くと本当に悪かったというような顔をしていたので、私は仕方ないなという顔をした。そういえばさっき俊介がどこに行こうとしていたのか急に気になった。
「いいの?帰って。どこかに行く予定だったんじゃないの?」
「あ~あ、ことが病気だって聞いたから、見舞いの飲み物でも差し入れしようかと思ってコンビニ行くところだったんだ」
「そうなの?」
「ああ」
そういった俊介は、ふいに顔を向こうに向けた。
「教科書販売の日いつにする?」
「この姿がまた元に戻ったら、私はいつでもいいよ。俊介は?」
「俺もいつでもいいよ」
「じゃあ、また美香ちゃんに都合いい日聞いておくね」
そう話しているうちに我が家が見えてきた。家の前に誰か立っている。
「ねえ、あれうちのお母さんだよね」
「ああ、そうだな。だけどずいぶん怒った顔してないか」
「やっぱり~。どうしよう、怒られるぅ」
「なんで?」
「黙って外出したから。この姿じゃあ外に出たらだめって言われてたんだ」
「あ~あ」
我が家に近づくごとに、母の怒った顔がはっきりと見えてきた。私は先に走っていって母の元へ行った。
「外に出てたのばれちゃった?」
「もう、探したわよ」
「ごめん」
私が母にそう謝っていると、俊介まで走ってきて私の隣に立った。
「すみません。俺がことを外に連れ出したんです」
母は、俊介の言葉に目を丸くしている。そして私にどうしたの?という顔をしている。私が俊介にばれてしまったことを話そうとした時だ。
「おばさん、すべてことから聞きました。絶対にこの事は誰にも言いません。信じてください」
「お母さん、俊介にばれちゃったぁ」
母は、私と俊介の顔を見比べると仕方ないなあという顔をした。
「俊介君、わかったわ。こんなことだけどこれからもよろしくお願いね」
私が『こんなこと』って何よと抗議の言葉を言おうとした時だ。
「はい、これからは俺が責任もってことを監視します。お茶も忘れないように飲ませるようにします。あと温室の作業も手伝います」
俊介が勝手に母に宣言している。
「ちょっと俊介、監視って何よ。手伝いなんていらないから」
私が俊介に食って掛かると、それを見ていた母が笑いながら言った。
「よろしくね」
「よろしくしなくていいから」
「はい、わかりました」
私が抗議したが、母と俊介にはスルーされてしまった。俊介は別れるときにはもう保護者気取りで言って帰っていった。
「こと、これからお茶飲むの忘れるなよ!じゃあな」
「それいらないから!」
俊介は私の叫びを無視して振り向かずに手だけ振っていたのだった。
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