第38話 俊介はわかってくれたようです

 「なんで腕つかんでるの?」


 私はちょっと首をかしげてかわいらしく聞いてみた。俊介はそれでも私の腕を離してくれなかった。それどころか力が余計こもった気がする。


 「君はことだろう?」


 「えっ、何言ってるの。そんなわけないでしょ。どこをどう見たらことに見えるの?この私が」


 私がそうちょっと偉そうに言えば、俊介はあきらめるかと思ったのだが、俊介は私を見てニヤッと笑った。


 「俺もことと君が似ても似つかないと思っている。けどどうしても君がことに見えるんだ。なあお前ことだろう?前に俺にいったよな。あの時は鼻で笑ったけど、お前が嘘なんてつくはずがなかったんだ。あの時のことごめん。この目で見るまで信じられなかったけど、今ならわかる。お前はことだ。でもどうしてそんな姿なのかわからないけど」


 「ねえ、どうしてそう思うの?ずいぶん確信があるみたいだけど」


 「さっきことって呼んだら答えたじゃないか。それに癖がこととそっくりなんだよ。例えばむっとしたときのしぐさとかちょっと怒った時の様子とか」


 「えっ、そうなの~?」


 私は、一瞬そうなのかと思って俊介に聞いてしまった。それがまずかった。


 「やっぱり、ことは単純だからすぐにばれるんだよな」


 「そうなの...」


 私はどうしようかと思いなやんた。家族に特に母からはきつく言われていたのに、出かけるなって。ちょっとだけならいいと思ったんだよね。どうしよう~。ひとりうだうだ考えていると、私の様子をずっと見ていた俊介が私に言ってきた。


 「なあこと、どうしてそんな姿に変化したんだ?いつもなのか?」


 「ねえ、今から言う事誰にもいわないって約束できる?」


 「うん。約束する!絶対に!」


 俊介はまっすぐ私の目を見て言ってきた。私は俊介のその目を見てすべてを話すことにした。


 「そうだったんだな。大変だったな」


 私の話を聞いて一番はじめに俊介がいった言葉だった。


 「信じてくれるの?」


 「そりゃあことのこの姿見たら、信じない訳にはいかないだろう。実はさ、俺前にことの変化した姿見た時、おやじに聞いたんだ。俺が見た子誰だって。そしたら親父びっくりしていたけど、誰にも言うなっていうんだぜ。俺がなんで?って聞いたら、あの方は尊い方だからなかなかみられるもんじゃないっていうんだ。俺また小学生だっただろう、意味わかんなくて、どこに住んでるかって聞いたら親父なんて言ったと思う?」


 「わかんない。あっもしかして月?」


 「よくわかったな、まあことのご先祖様のこと考えたらすぐわかるんだろうけどな。俺親父に食ってかかったんだよ。月なんて誰も住んでないって。親父は月ぐらいに遠いところだっていうだけだったんだ。それからさ、もう聞くなって言ったくせに俺に聞いたんだぜ。そのお方はどんな感じだったかってさ。すごく興味深々だったなあ」


 「ふう~ん」


 「今日の事は親父にも言うのやめるよ。だってこと怒られちゃうんだろ。もう帰るか。この姿にならないのは竹のお茶飲むんだったっけ。これからちゃんと飲めよ。忘れんなよ。こと忘れっぽいからなあ」


 「そんなことないよ。いつもがぶがぶ飲んでるもん。今回だけはちょっと変身してみたかっただけ」


 「そうか、じゃあ帰るか」


 俊介はそういって私とふたり帰ることにした。それにしても俊介が、簡単に信じてくれたのでびっくりした。まあこの姿を見たら信じない訳いかないものなと私は思ったのだった。


 私と俊介が公園を出た時だ。ちょうど向こうから自転車に乗ってやってくる人がいた。


 「お~い、俊介!ちょうどよかった!」


 急いで自転車をこいできたのは、岡本君だった。岡本君ははじめ後ろにいた私に気が付かなかったが、私に気づいたとたん金縛りにあったように固まった。


 「おい岡本、何の用だったんだよ」


 何も言わずに固まっている岡本君に俊介が声をかけた。


 「あっ、今度教科書販売いくのいつにするか相談しようと思ってさ」


 岡本君は俊介に言いながらも、ちらちらと私を見ている。岡本君の様子を見て、さっき声かけなくてよかったと思った。岡本君を見た時、一瞬自分が変身していたのを忘れてしまったのだ。俊介が不意に前に出て、私が見えないようにしてくれたので考える余裕ができた。ナイス俊介!と後でいわなくてはいけない。

 岡本君は私の心の内を知らずまだちらちらと見ているので、私は挨拶することにした。


 「こんにちは、わたしことの親戚です」


 「えっ、笹竹さんの?そうなんだ。もしかして俊介の彼女?」


 「「えっ、違うよ」」

 

 岡本君のびっくり発言に思わず私と俊介は同時に声を出していた。


 「違うの?」


 あまりに驚いた私たちに岡本君も自分から聞いたにもかかわらず、私たちの素早い否定にびっくりしていた。


 「当たり前だよ」


 つい私が言うと、岡本君はなぜかちょっと残念そうな顔をした。


 「そうなんだ。仲よさそうだったから彼女かなと思ったんだけどな」


 「なに言ってんだよ」


 俊介が苦笑いした。私は私で、かぐや姫そっくりの美少女に変身しているのにも関わらず、俊介といい岡本君といい、私の美少女の姿に目を見張るもののそこまでモテる感じがしないことに少し拍子抜けしたのだった。 


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