第37話 俊介にばれた?

 私と俊介は、前にいった公園に向かった。近くのベンチにふたり腰を下ろす。俊介が言った。


 「今はことんちにいるんですか」


 私は敬語を使った俊介に吹き出しそうになってしまい、慌てて下を向いた。笑いがこみあげてくるのを必死でこらえた。


 「うん、そう」


 「あのう、こと大丈夫ですか?」


 「えっ」


 私は急に俊介が言った言葉の意味に気が付いて笑いがすっこんでしまった。いったい何を言ってるんだろう?俊介は私の訳が分からないというような顔をみていった。


 「今日ことんちにいったら、おばさんが、ことはちょっと風邪気味だから3日間は寝かしておくって言ってたんです。だから大丈夫かなって。三日って長くないですか?風邪ひどいのかなあ」


 俊介は心配そうに私に聞いてきた。私は俊介がうちに来たことにびっくりした。


 「何か用あったの?」


 「いえっ、教科書販売いつにしようか聞きに行ったんです」


 「なあんだ」


 私は何か急な用事でもあったのかと思い心配になったのだが、俊介の話を聞いて気が抜けた。しかし俊介はそんな反応をした私にちょっと顔をしかめた。


 「それで、ことの風邪大丈夫なんですか?」


 「あ~あ、風邪ね大丈夫なんじゃない?」


 私は大した話ではなかったので、軽く俊介に言うと俊介の顔が余計険しくなった。


 「あなた、心配じゃないんですか。今ことんちにいるんですよね」


 私は俊介の言葉にびっくりした。自分が恋している子にこんな口の利き方をしたら嫌われるんじゃないか、反対に心配になった。そんなことをした俊介に改めてびっくりした。私がまじまじと俊介の顔を見たからだろう。俊介も自分の強い口調にちょっと悪かったと思ったのか、言い直してきた。


 「すみません。でも本当にことどうですか。体調すごく悪いんですか」


 私はそんなに私を心配してくれている俊介に驚いてつい言ってしまった。


 「ねえ俊介、あなた私を好きなんじゃないの?」


 そう私に言われた俊介は、私の顔をじっと見てから下を向いて言った。


 「ことから聞いたんですね」


 「うん、そう」


 「あの時にはそうでしたが、今は違います」


 「そうなの?」


 「はい、他に好きな子がいるんです」


 「えっ____!!」


 「ねえ誰なの?誰?」


 私は好奇心を抑えられず畳みかけるようにして俊介に聞いた。俊介は何か言いたそうだったが、ぽつりと言った。


 「たぶんその子からは嫌われていると思います。ひどいことを言ったから」


 「そうなの?なんて言ったの?」


 私はつい聞いてしまったが、俊介は黙ったままだった。


 「それよりことは大丈夫なんですか?」


 「あ~あ、大丈夫。ただの腹痛だから」


 「腹痛?食べ過ぎで?」


 「よくわかんないけど」


 「じゃあどうして3日間も寝るんですか?」


 私は軽くそう言ってしまった後、俊介の質問に答えられなかった。しかし私が言葉に詰まったことで、どうやら別の解釈をしたらしい。


 「ああ、お仕置きですね。おばさん怒ったんだな。ことならやりそうだもんな」


 俊介はひとり納得して、にやにやしだした。


 「なに笑ってるの?」


 俊介がろくなことを考えていないのがわかって、ちょっとむっとした私は俊介に言ってやった。


 「変なこと考えてるんじゃないでしょうね」


 そういわれた俊介は、なぜかはっとして私の顔を穴が開くほど見つめた。


 「なに?」


 あまりに見つめられて少し気恥ずかしくなった私は、俊介にちょっと怒ったように言った。俊介の見ているまなざしは、どう見ても私を羨望の目で見る目つきではない。私の少し怒った顔をまたじっと見ていた俊介は、不意に言った。


 「喉乾きませんか。何か買ってきましょうか」


 「いい。ちょうどさっきコンビニで買ってきたから」


 私はそう言ってコンビニで買ったアイスミルクティーを俊介に見せた。ちょっとぬるくなってしまったかなと考えていると、俊介が今度は私の買ってきた飲み物をよ~く見ていた。


 「じゃあ俺、そこの自販機で買ってきますね」


 俊介はそういうとこの前も買ったように公園の入り口にある自販機に向かった。私はその様子をぼーと見ていたが、先ほど俊介の言った言葉が不意に気になった。

 

 (俊介、好きな子がいるって言ってたよな。誰だろう)


 そう考えているとき後ろから声がした。


 「こと!それもうぬるくなっちゃっただろう?冷たいの買おうか?」


 「いらない。これ飲むから」


 そう言って俊介のほうを見た私は固まった。俊介が思ったより近くにいてにやにやしていたのだった。私はなに?と聞こうとしてはっとした。そういえばさっき俊介、私の名前を呼んでいなかったか?それにさっき俺って言ってなかったっけ。会ったときには僕って言っていたのに。

 

 私はものすごく嫌な予感に襲われて、急いでベンチを立った。


 「じゃあ、また!」


 そういって駈け出そうとした時だ。さっきよりもっと近くに来ていた俊介に、腕をむんずとつかまれていたのだった。


 

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