第36話 変身した私です。
いよいよ春休みが始まった。私は、始まってすぐ母と制服を注文にしに行った。サイズを測ってもらって注文する。今までの制服は、セーラー服だったけど今度の高校はブレザーにジャンバースカートだ。ただ夏はセーラー服になるという二度おいしい制服なのだ。私的には夏のセーラー服が大好きだ。上が白に紺のスカーフ。下は紺のギャザースカートでかわいい。
高校にもなるとそうそう縦には伸びないので、今ぴったりの制服を注文しておいた。いまから着るのが楽しみだ。
あと春休みになって私の仕事ができた。それは、温室の竹の管理だ。私は変身したくないので、毎日たくさん竹の葉を煎じたお茶をがぶがぶ飲んでいる。
今までは、母とおばあちゃんの仕事だったが、私がおばあちゃんの仕事を引き継ぐことになったのだ。もともとおばあちゃんは、私とは違い体の弱い人で季節の変わり目は体調を崩しやすかった。今まではそれでも頑張って竹の管理をしてくれていた。しかし私の半端ない飲む量に、母が私に手伝うよう言ってきた。私としても高校では部活に入る予定はないので、竹の管理がができる。部活並みに頑張るつもりだ。なぜならこれからもたくさんの量を飲むつもりだからだ。
温室には自動的に水を撒くスプリンクーラーと空調設備が付いているが、肥料や草取りは自分でやらなくてはいけない。あと煎じるための竹の葉っぱ摘みが主な仕事だ。
今日もせっせと草取りをしている。ただし春休みに入ってから竹の葉を煎じたお茶を飲んでいない。今月である3月はちょうど春休みに満月になるので、久しぶりに変身するつもりだ。本当は嫌なんだけど、久しぶりに変身した姿を見てみたいっていうのもある。あのかぐや姫の絵に似てるのか自分でも確認してみたい。だが本当の目的は、一年に一度ぐらいは変身しておくと年に一度の体調を崩すことがなくなると母に聞いたからだ。
春休みに入って5日たった。明日満月だ。今日朝起きたら、髪の毛が伸びていて首に巻き付いていて苦しくて飛び起きた。最初首に何か巻き付いているのを感じて、なにがなんだかわからなかった。首に巻き付いているものをとろうとひっぱったら、頭が痛かった。しかも巻き付いているものを見ると真っ黒な髪だ。今度は慌てて鏡に向かった。
鏡には、前に見たかぐや姫を少し幼くした絵とそっくりな美少女が映っていた。髪は背中まで伸びていて、それにも驚くほかなかった。私の今の髪の長さは肩につくかつかないかなのだ。
とにかくびっくりして、私はパジャマのまま一階にいる母の元へ飛んでいった。
「お母さーーん!大変だよー!」
母は私の慌てた声にびっくりして飛んできた。母は私を見て一瞬びっくりしたが、私の顔をよく見ていった。
「まあことちゃん、変身したのね。まあ綺麗~!まるでかぐや姫様そっくりね」
母はそういうとまたキッチンに戻っていった。母のあまりに落ち着いた声に、私は先ほどまで焦っていた気持ちが急に落ち着くのを感じた。それから普通に部屋に戻り、身支度をしてキッチンに向かった。キッチンには父が座っていて朝ご飯を食べていた。
「ことちゃんおはよう~」
そういった父の箸を持つ手が止まった。
「ことちゃん?だよね」
「そうだよ、おはよう」
「あ~あ、ことちゃんだ。声でわかるよお父さんは」
偉いだろうといった得意げな顔をしたので、フンといって席について無言でご飯を食べ始めた。
「それにしてもそっくりだね。まるでかぐや姫様だ」
あまりに父がずっとご飯も食べずに私を見ているので、私は言ってやった。
「お父さん、会社行くの遅れちゃうよ」
意地悪く笑いながら言ってやると、父は目を見張った後嬉しそうに笑った。
「やっぱりことちゃんだ。ことちゃんの顔してる」
そう訳の分からないことを言って、ご飯を食べて慌てて仕事へ向かった。そのあとおばあちゃんやおじいちゃんにも変身した姿を見せたが、二人はそれほど驚くことはなかった。
「ほんとにかぐや姫様にそっくりね」
「ほんとだね」
ごくごく普通の感想だった。二人のその反応に完全に私の心は落ち着いた。ご飯を食べた後は、今日も温室へ向かった。最近やっている草取りをした。ただ今日は、いいお天気のせいか春なのに温室の中は暑くなってきた。髪をお団子にしてバレッタでとめた。
あまりに暑くなってきたので、昼前にちょっとコンビニにアイスを買いに行くことにした。財布だけ持って出かける。近所に行くだけだったので、母には言わずに行った。
いざコンビニに着いてアイスを選ぼうとしたが、やはり好きなアイスミルクティーを買うことにした。途中いろいろなところから視線を感じた。ちょっと違和感を感じたが、選ぶのに忙しかったのでそのことをすっかり忘れてしまった。お金を払う時には、いつもの店のおじさんにまじまじと見られた。
あれっと思いながら店を出た時、前から俊介が歩いてきた。
俊介は私を見ると、びっくりして足が止まっている。目をこれ以上ないほど大きく開けてこちらを見ていた。私は何だ!と思ったが、あまりの俊介の驚き様にふと自分が変身していたのを思い出した。今さらながらコンビニでのみんなの反応を思い出す。
俊介はなんだか改まった顔をして挨拶してきた。
「久しぶりだね。僕の事おぼえているかなあ」
「もちろん」
私はすました顔で言いながら、俊介が今言った言葉に内心笑いをこらえるのかつらかった。
(今僕って言ったよ、僕って。いつも俺って言ってるのにさ)
私が心の中でひとり突っ込みを入れていると、俊介が言った。
「ねえ、ちょっと今話せる?」
「うんいいよ」
俊介が先に歩いていく。私は内心にまにましながら俊介の後をついていった。歩きながら今日はもしかしたら面白いものを見ることができるかもしれないなと考えていた。面白いこととは、変身した私に俊介が心の中で温めていた恋心を告白するというものだ。それを私が一刀両断するのだ。俊介は大失恋だ。私は心の中でけっけっけっと笑った。
ついた場所は、前に俊介にアイスティーをおごってもらった公園だった。
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