第35話 卒業式当日です

 とうとう卒業式の日がきてしまった。教室に集合した時から、皆がなんとなくセンチメンタルになっているのを感じた。小学校の時には、皆が同じ中学校に行くのでそこまでこんな雰囲気はなかった。今日が卒業式なんだと改めて実感することになった。皆で並んで会場に向かう。今から鼻をすすっている子もいた。たぶん花粉症じゃないと思う。

 卒業生総代は俊介だった。親友の美香ちゃんも代表で前に出た。もちろん私も今回大抜擢された。三年間無遅刻無欠席の人たちの代表だ。家族に言ったら、特に父が喜んでいた。あいにく父は今日来れなかったので、いつものようにおばあちゃんと母が来るかと思ったら、今日はおばあちゃんはお留守番で母だけだった。朝学校に向かう時だった。


 「ことちゃん、卒業おめでとう。入学式には絶対に行くからね」


 玄関で見送りをしてくれたおばあちゃんは、少し風邪気味とのことで顔色が少しだけ悪かった。


 卒業生総代として俊介が言葉を読み上げると、会場から鼻をすする音が聞こえ始め私も涙が出てきた。幼稚園からずっと一緒だった子も多い。今まで当たり前のように、顔を合わせていた子達と毎日会えなくなるのかと思うと、私の中でもこみあげるものがあった。

 

 校長先生の言葉も心にしみた。普段の朝礼では、早く終わらないかなと不謹慎なことをよく考えていたものだが、今日の校長先生の言葉は一言一言が心に沁みた。最後のみんなの合唱では岡本君が指揮をした。その頃には会場から嗚咽のような声も流れ始め私の涙腺も大崩壊した。

 

 式が終わり教室に戻ると、どの子も目が真赤でみんなでその顔を笑いあった。しかし先生が私たちに贈る言葉を話し出すと、またそこかしこから鼻をすする音が聞こえ始め、私の涙腺も二度目の大崩壊を遂げた。代表の子が先生に色紙や手紙そして保護者の人が買っておいてくれた花束を渡すと、先生もなんだか顔がくしゃっとなって、それを見た私たちもまた涙がこぼれてしまうという始末だった。


 

 そして最後に校庭に出ると、みんなで写真を撮った。保護者の人たちにみんなでの写真を撮ってもらってご満悦だった。その時に声がした。


 「先輩!」


 声のほうを見ると、部活の後輩たちがみんなで来てくれた。私たち三年生を集めて後輩たちから寄せ書きと花束を渡してくれる。これに私たち三年生もまたまた涙がこみあげてきて、今日一日でどれだけ水分が減っただろうかと思うぐらいだった。しばらく後輩や部活の仲間としゃべっていると、後輩の一人が指をさした。


 「先輩!すごいですね。葉ヶ井先輩、後輩やら同級生の女の子たちに囲まれちゃってますね。先輩も行かなくていいんですか?」


 「なに言ってるの。先輩は一緒の高校だからいいのよ」


 「そうでしたね、先輩、青竹高校合格おめでとうございます」


 「ありがとう」


 後輩の問いに私ではない後輩が答えてくれた。私もお礼をいった。それから私が後輩が先ほど指さしたほうを見ると、確かに女の子たちに囲まれている。あたりを見渡すと、岡本君も女の子達に囲まれている。

 その向こうには、なんと美香ちゃんが後輩や同級生の男の子たちに囲まれているではないか。私が凝視していたのを、後輩の子が目ざとく見つけ私の視線の先を見ていった。


 「田野村先輩もモテますもんね。大丈夫ですよ。先輩もモテてますから」


 後輩が、そういってあたりを見渡した。私もあたりを見渡す。確かに私の周りにも人が集まっている。ただし女の子ばかりだけど。それでも嬉しい!今宝塚の男役の人の気持ちが、ほんの雀の涙度だけどわかった気がした。

 そうしているうちに帰る時間になり、私の周りにいた子達も帰ることになった。


 「今日は、来てくれてありがとう!」


 私たち三年生の部員たちは、後輩たちにお礼と手を振って別れた。そして私たちもみんな今日きてくれた保護者と帰ることにした。

 

 「「「また絶対に会おうね!」」」


 みんなでまた少しおセンチな気分になりながら別れた。


 私は、母と美香ちゃんと美香ちゃんのお母さんと帰っていった。帰る途中早咲きの桜が咲いていた。


 「ここで写真撮ってあげるわよ」


 美香ちゃんのおばちゃんが言って、私と美香ちゃんがその早咲きの桜の前に立った時だった。


 「お~い!」

 

 その言葉に私たち四人が声のほうを見ると、俊介と俊介のお母さんがちょうどこちらに向かってくるところだった。俊介は走ってきた。


 「何してんの?」


 「今ね桜の前で写真撮るところ」


 私が答えると、俊介は私たちが立ってる後ろを見上げた。


 「ほんと満開だな」


 「俊介も一緒に撮る?」


 「いいのか?」


 「いやって言いたいとこだけど今日は許す」


 私がわざと偉そうにそういってやると、俊介がちょっと吹き出した。私たちが写真を撮ってもらおうと母親たちを見ると、三人で話に花が咲いていた。


 「あれは、しばらくだめだぜ」


 俊介が悟ったような声を出したので、今度は私と美香ちゃんが吹きだした。


 「ねえ、制服採寸と教科書販売あるよね。電子辞書何買う?」


 「そんなに電子辞書種類あるの?」


 私が思わずそう言うと、後のふたりが私にあきれたような顔をした。


 「あるに決まってるじゃん。いったいどれだけあると思ってるんだよ」


 俊介があきれながらも私に言ってきた。


 「へえ~そうなんだ。でもさたぶんおすすめなの書いたカタログ、きっとどこかでもらえそうじゃない?」


 「そうだよね。じゃあまた教科書販売の時にはみんなで一緒に行かない?」


 「いいねえ。そうしようぜ」


 美香ちゃんがいい、俊介がその案に乗った格好になった。ちょうど話が一段落したときに母たちがやってきた。


 「お待たせ~」


 少しも待たせたと思ってない様子で母たちが言ってきた。そうして三人で早咲きの桜をバックに写真を撮ってもらった。


 なぜか私が真ん中になっていた。写真を撮るときにちょうど春らしい暖かな風が吹いてきて、桜の花びらが少しこぼれてきた。桜の花びらも写っているといいなと思ったのだった。



 





 


 

 


 

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