第27話 初詣です
今年は受験ということもあり、正月は家族みんなで朝からお雑煮を食べるだけだった。正月の朝だけは、いつもならおばあちゃんちの方で朝からおせち料理を食べたりするのだが、今日は母に朝から初詣に行くといってあったこともあり、おせち料理は夜食べることになった。
「明けましておめでとうございます」
「「「「おめでとうございます」」」」
おじいちゃんのあいさつに皆が同じ挨拶を返すのが毎年の恒例だ。お雑煮を食べる前におじいちゃんとお父さんからお年玉をもらいホクホクした私は、気分もよく皆に挨拶した。お雑煮もおいしかった。
それからみんなでテレビを見ていると、時間になったので家の前で立って待っていることにした。寒いので寸前まで玄関で粘って外に出ると、ちょうど道の向こうから俊介がやってくるのが見えた。俊介が手を振ってくる。私も手を振った。俊介が私の近くに来て急に改まった声を出して挨拶してきた。
「新年あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」
私も俊介に改まった声で同じことを言ってぺこりと頭を下げた。お互いこんなにかしこまったことがないので、お互いの顔を見合った時、なんだか気恥ずかしかった。そして俊介と歩いて神社へ向かった。実は俊介の家はうちのお隣さんなのだ。うちの敷地が広いので、お隣といってもちょっと距離はあるのだが。
ふたりさっき変に改まってあいさつしたばかりなので、なんとなく一緒に歩くのもぎこちなくお互い黙ったままだった。
「早いね。今年はもう受験の年だよ。あと一か月だね」
私は、変な沈黙に耐えられず俊介に話しかけた。俊介も待ってたとばかりに話してきた。やはり俊介も先ほどの謎の沈黙が痛かったに違いない。
「そうだな。あと一か月か」
そうして昨日見たテレビの話をしているうちに神社の前に着いた。神社の前では、美香ちゃんと岡本君が待っててくれていた。
私は美香ちゃんのもとに飛んで行って新年のあいさつをした。美香ちゃんも返してくれる。そこへ岡本くんも挨拶してきてみんなでまた挨拶しあうことになった。
「じゃあ行こうぜ」
俊介の言葉に四人で神社の境内に入っていった。人はそこそこいた。小さいながらもちゃんと境内の横にはテントが二つ張られていて、一つはお守りを売っており、もう一つは無料で甘酒を配ってくれていた。
私たちはまずお参りを済ませることにした。私は真剣にご先祖様にとくとくとお願い事をしていたので、お参りが済んだ後皆を探すと皆はもうすでにとっくにお参りを済ませていた。
「おいこと、ずいぶんながい間お参りしていたな」
「ほんとことちゃん、真剣だったね」
「まあ今年は勝負の年だもんね」
俊介、美香ちゃん、岡本君が私がながくまでお参りしていたことについて言ってきた。
「みんなこそ早かったね」
私はみんなのあっさりしたお参りのほうにびっくりしていたのだ。やっぱり余裕な人達は違うなと感心した時だ。
「ことが長すぎなんだよ」
俊介の言葉にあとの二人がうなづいていたのを見ると、やはり私がながすぎたらしい。まあこれくらいながくお参りしたんだからご利益あるよねそう思った私だった。
それから四人でお守りが売られているところにいった。私はもう家族からお守りをもらっているので、ただ見ているだけだったが、美香ちゃんが不意に提案してきた。
「ねえ、みんなで合格お守り買わない?おそろいにしよ」
私は心の中でお守りをおそろい?とひとりつっこみを入れた時だった。
「いいなそれ」
「いいね。今日の記念に」
他のふたりが美香ちゃんの言葉に大賛成しているのを見て、あっけにとられた私に美香ちゃんが聞いてきた。
「ことちゃんどう?」
ここでさすがにいや~とは空気を読める私が言えるはずもなく、笑ってごまかした。合格お守りをみんなで見た。ちょうど色が四色あった。青、黄色、白、緑。私は適当に白を持った。みんなは何色選んだのかなあと見ると、俊介と岡本君も白いお守りを選んでいた。美香ちゃんはどうかな?美香ちゃんを見ると、黄色いお守りを手に持っていた。私はすかさず白いお守りを戻して黄色いお守りを手に取った。
「美香ちゃんお揃いだね」
私が美香ちゃんに黄色いお守りを見せると、なぜか俊介と岡本君も白いお守りを戻して黄色いお守りを手に持ったのだった。
「じゃあこれでみんなお揃いだな」
「そうだね」
俊介と岡本君もそういい、嬉しそうに黄色いお守りを持っている。私の中で一つ勉強になったことがあった。お守りのおそろいというのは、お守りの色の事であり、男子も女子と一緒でおそろいが好きだということを。
「このお守りふで箱に入れていく?それとも鞄に入れていく?」
またまた私はどっちでもいいんじゃない?ということを思ったのだが、後のふたりも交えて真剣に話しているのを聞いて、やっぱり合格圏内にいる人達でも神頼みするんだということに気が付いてちょっとほっとしたのだった。
「ねえことちゃん?どっちにする?」
「おいこと、聞いてなかったのか?」
美香ちゃんと俊介に突っ込まれて焦った私はつい言ってしまった。
「鞄でいいかな」
先ほどの議論は何だったの?と思う暇もなくあっさりとお守りは鞄の中ということになった。そしてもう一つの甘酒を出してくれるテントに皆でいって甘酒をもらって飲んだ。
冷えた体に、甘くて温かい甘酒はとってもおいしかった。
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