第25話 幼馴染と和解しました

 こうして私のハードな中学三年生生活が始まった。塾は週二回。部活は毎日ある。

 特に今年は私たち三年生が中心となって頑張らなくてはいけない。やはりというべきか私は部長だ。最近では後輩からも慕われていて、ちょっとした人気者だ。ただどう見てもみんなの私を見る目は、宝塚の男性役の人を見る目に近い感じがする。あれから髪が常にベリーショートなのも大きく影響しているように思う。

 私の本音としては少し微妙なんだけど、人から嫌われるよりは好かれている方がうれしいので、まあ良しとする。

 

 そんな日も今日で終わってしまった。私の三年間の部活人生が終わった。あんまりというか全くいい成績を残すこともなくだ。みんなと別れてとぼとぼとひとり帰っていく。ただ今日はなんとなくまっすぐに家に帰りたくなかった。

 

 家のすぐそばにある公園にひとり向かった。ここは小さいころよく遊んだ場所だ。日も落ちかけて薄暗くなってきたせいか、誰も人がいなかった。私はブランコを見つけてブランコに座った。小さい頃はこのブランコが大きく感じたけれど、今座ってみるとずいぶん小さく感じる。

 私は荷物を横に置いてブランコをこいだ。まだ初夏ともいっていい時期だ。夕方になってやっと風が涼しくなってきた。ブランコをこぐたび、風が当たって気持ちいい。夢中でこいでいると、後ろから声がした。


 「こと?」


 ブランコをこぎながら声がしたほうを見ると、俊介が公園の入り口に立っていた。俊介はあっという間に私のすぐそばに来た。


 「なにしてんだ?もう暗くなってきたぞ」


 まるでいうことがお父さんの様だと思ったらちょっとだけ笑えてきた。今日の恰好は上は半そで下はジャージ姿だ。たぶん遠目からでは男の子しか見えないのにと自虐的に思った。ついそれがそのまま言葉として出てしまった。


 「大丈夫、男の子にしか見えないから」


 俊介は何も言い返さなかったが、少し怒ったような顔をしている。でも私の顔をよく見てから、荷物を置いて自分も私の隣のブランコに座った。


 「どうかしたのか?」


 きっと私の顔が暗かったのが薄暗くなった中でもわかったのだろう。


 「今日で部活終わった。負けたから」


 私は、たぶん俊介の顔が薄暗くてよく見えないことに安心したのか、それとも誰でもいいから誰かに言いたかったのかもしれない。とにかく自分の少しやるせない気持ちを吐き出したかった。


 「そうか」


 俊介は珍しくそういっただけで何も言わず自分もブランコをこいだ。しばらくふたりで無言でブランコをこいでいたが、急に俊介が言った。


 「昔よくこれに乗ったよな。ことともブランコの取り合いで大げんかしたよな」


 「うん、よくとっくみあいの喧嘩したよね」


 私も俊介に素直に言った。


 「ちょっと待ってろよ」


 俊介はそういって自分の荷物を置いたままどこかに駆けていった。そしてすぐに戻ってきた。


 「はいこれ」


 「あっありがとう」


 俊介が差し出してきたのは、冷たいアイスティーのペットボトルだった。自分の分は炭酸飲料を買っていた。私は、素直に差し出されたペットボトルを受け取った。公園の入り口にある自販機で買ってきてくれたようだ。

 俊介は、炭酸飲料のふたをとった。シュワーっと音がして、炭酸飲料の泡がペットボトルから少しこぼれた。


 「わあー」


 俊介は少し焦ったように急いで飲んでいる。私もその様子に少し笑いながらアイスティーを飲んだ。ブランコをこいで少し熱くなった体には冷たいアイスティーがとてもおいしく感じた。

 ふたりで黙って飲んでいたが、先に飲んでしまった俊介がこちらを向いて何か言いたそうにしているのに気が付いた。

 私が俊介のほうを見ると、俊介の顔が少し赤くなったような気がした。薄暗くてよくわからなかったけれど。


 「前にことに行ったこと、ごめんな。ずっと謝れなくてさ。後悔してた」


 私は胸の奥にあった小粒ほどのわだかまりという石がすべてきれいに溶けてなくなった気がした。


 「うん、もういいよ」


 「そうか、よかった」


 俊介の心から嬉しそうな笑顔にちょっとだけ私も嬉しかった。俊介は私が飲んでしまったのを確認していった。


 「もう帰ろうぜ」


 「そうだね」


 気が付けばあたりはすっかり暗くなっていた。ふたりで歩きながら俊介が言った。


 「こと、学校どこ受けるの?」


 「青竹高校。受かるかわかんないけどね、今の成績じゃあ。俊介は?そうか、俊介は頭いいもんね、もちろん青竹高校か」


 「うん、今決めた」


 「今?なんで?」


 「なんでかな?」


 俊介は何も言わなかった。

 前の夏祭りの時同様、俊介は玄関前まで送ってくれて帰っていった。私が帰っていく俊介の後姿を眺めていると、俊介がくるりと振り向いていった。


 「おい、こと!絶対青竹高校受かろうな」


 そういった俊介はすごい勢いで走って行ってしまったのだった。




 

 

 

 


 

 

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