第24話未来のため頑張ります

 夏休みが終わり二学期が始まった。うちの学校は一学期ごとに学級委員が変わるので、岡本君との接点もなくなったはずだった。


 「笹竹さんおはよう。髪切ったんだね」


 「うん」


 「似合うね」


 教室に入ってすぐ、ちょうど岡本君と目が合ってしまった。目があった岡本君は私のそばに来て話しかけてきた。私はといえばまだあの失恋が尾を引いているので、あまり話したくない。岡本君から逃げようとした時だった。


 「ことちゃんおはよう!」

 

 美香ちゃんが教室に入ってくるなり、遠かったにも関わらず私に話しかけてきてくれた。


 「おはよう、じゃあね岡本君」


 私は岡本君から逃げるように美香ちゃんのところへ走っていった。後ろで私を小さく呼ぶ声が聞こえた気がしたが、気のせいだと思うことにした。

 それからことあるごとに話しかけてくる岡本君に、私は正直うんざりしていた。だって失恋した相手に話しかけられてもちっともうれしくない。なんなら話しかけないでほしい。そんなオーラをまとっていても岡本君は私を見ると、声をかけてくる。

 

 その日も、帰りに私が部活に行こうと靴箱で靴を履き替えていると、岡本君がやってきた。


 「今から部活?」


 「うん」


 「あのさ、ちょっと...」


 岡本君が私に話しかけてきたときだった。


 「やあ岡本、そういえばさ~」


 岡本君が私にいってきた言葉にかぶせるように、聞き覚えのある声がした。


 「なんだよ!俊介」


 岡本君の出した声が少し剣を含んでいるように感じた。岡本君に話しかけてきたのは俊介だった。


 「じゃあ」


 私はこれ幸いと岡本君から逃げ出した。俊介とは目も合わさなかった。今は岡本君より俊介に会うほうが恥ずかしい。やっぱり失恋現場を真近で見られるほど恥ずかしいものはないのだ。ただ後ろから俊介の声がした。


 「じゃあな、こと!」


 それからしばらく岡本君が私によく声をかけてきたが、ある日美香ちゃんがこれでもかと岡本君をにらみつけてからぱったりとそれは収まった。

 

 「ねえ美香ちゃん、何か岡本君の弱みでも握ってるの?」


 私が美香ちゃんがにらんだだけで、岡本君のがらっと変わった態度にちょっと気になった。


 「ううん別に。ただ負い目でもあるんじゃないの?」

 

 「負い目?」


 「だって私とことちゃんの中を壊そうとしたんだよ。もしことちゃんが許してくれなかったら本当にそうなっていたんだし」


 「そんなことないよ。美香ちゃんは私の大切な親友だもん」


 「うれしい~。ことちゃんがそういってくれて」


 美香ちゃんの嬉しそうな様子に私までうれしくなった。こんな時でもないとさすがに言えない言葉だった。今日だけは、ここにいない岡本君に感謝した。



 毎日を楽しく過ごしているうちに、とうとう中学三年になってしまった。今年は受験の年だ。先生から耳にたこができるほど言われている。

 ただありがたいことに今年は岡本君も俊介も同じクラスにならなかった。ただし美香ちゃんとは、また同じクラスだったので嬉しい。これで受験にも身が入るというものだ。

 

 先日私は決意表明を家族にした。


 「私は一生結婚しません。仕事を頑張ってキャリアを積みます。そのために学校は青竹高校に行きます」


 「ほんとなの?青竹高校偏差値高いけど、ことちゃん大丈夫?」


 「いいねえ、ことちゃん。がんばれ。一生お父さんと一緒だよ」


 家族の反応はまちまちだった。母は現実的なことを言い、父はどこか抜けていた。それでも父として聞きたかったのかもっともな質問をしてきた。


 「ことちゃんはどうして青竹高校に行きたいのかな」


 「それはですね、お父さんの会社に入って、仕事を頑張るためです」


 それを聞いた父は気絶しそうなほど喜びまくっていた。


 「いいねえ、将来お父さんと一緒に会社に行くのか。じゃあことちゃんはお父さんの秘書だね」


 「まあね」


 本当は父の会社で働きたいが、父のそばで働きたくはない。でも機嫌を損ねないようにしようと打算が働いた。やっぱり将来雇用主になるからね。

 青竹高校は、うちから近い。だけど偏差値がすごく高いので有名だ。私たちが住んでいる県の中で一番高いのだ。でもそこへ行けなくては、将来父が働いている大会社にはとても入社できない。やはりコネでは行きたくないのだ。正直なところ。行きたい会社の本社が家の近くだし、ここから通える。将来結婚しない身としては、やはり家の確保は大事だろう。

 ということで、私はさっそく塾に入ることにした。今まで部活にその身をささげてきたものとして、塾に行って時間を取られるのはきつかったが、仕方ない。


 「ねえ美香ちゃん。私塾行くことにしたよ」


 「そうなの?どこ行くの?」


 私は家のそばにある実績のある塾の名前を言った。


 「そうか、じゃあ私も行こうかな」


 「そう?行こう行こう!」


 「うん、そこ翔也君がいってたとこなんよ。翔也君が経験したものを経験できるのは楽しみ!」


 美香ちゃんの塾へ行く動機はちょっと不純だったが、一緒に行けるのは心強かった。なぜならそこへはあの俊介も通う予定だからだ。いやになるよ。


 


  

 


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