第20話射的をやりたい

 お腹がいっぱいになった私たちは、今度は遊べるお店に行くことにした。

そして金魚すくいに行くか射的に行くかヨーヨー釣りをするかみんなで決めようということになった。今回も岡本君が仕切ってくれるらしい。


 「みんなどれに行きたい?」


 「やっぱり射的やってから金魚すくいじゃね」


 すぐさま俊介が言い出した。美香ちゃんはどうする?といった顔で私を見てきた。私は本当は射的と金魚すくいをしたいのだけど、俊介と同じっていうのが嫌だったので、美香ちゃんに聞いてみた。


 「美香ちゃんは射的とヨーヨー釣りどっちがいい?」


 「そうだねえ、ヨーヨー釣りがいいかな」

 

 私はヨーヨー釣りには興味がなかったけれど、美香ちゃんに同意しようとした時だ。


 「僕もヨーヨー釣りかな。じゃあさ、まず射的のところ一度見に行ってみようか。景品も気になるしさ」


 「そうだね!」


 私は岡本君の案に力強く同意した。やっぱり景品が気になる。いったいどんなのがあるんだろう。そこで、四人は射的のところへ行ってみることにした。

 私は好奇心が抑えられず前のめりで店を覗き込む。むむっ、なんと私の大好きなフィギュアが一番上に鎮座していた。小さいころから好きな戦隊もののフィギュアで、うちにも何体かある。小さいので置き場所には困らないのだ。私が食い入るように見ているのを見た美香ちゃんが言った。


 「ことちゃん、射的やりたいんじゃない?」


 私はううんといいたかったが、やっぱりやりたい気持ちが強すぎて言えなかった。


 「じゃあさ、俺とことが射的にいって、岡本と田野村がヨーヨー釣りに行けばいいじゃん」


 「えっ~?」


 私が俊介と一緒にやるのが嫌でつい言葉に出してしまうと、それを見た美香ちゃんが私のほうを見ていった。


 「じゃあ、ことちゃんと葉ケ井君の射的やるのをみんなで見て、それが終わったらヨーヨー釣りするの見ててくれればいいんじゃない?」


 私がいい案だとばかりにうなづこうとした時だ。


 「射的、結構人も並んでるしさ。ここは二手に分かれようぜ。遅くなるといけないし」


 そうなのだ。のんびり焼きそばやかき氷を食べていたら、結構人が多くなってきて、どの店も人でいっぱいだ。現に射的もずいぶん人が並んでいる。


 「そうだね。じゃあ早く終わったほうが、そっちに向かおう。迷ったら、金魚釣の前に行くということでいいかな」


 確かにこの調子では、私がほしいフィギュアがいつ取られてしまうかわからない。


 「そうだね、美香ちゃんそうしよう」


 「いいの?ことちゃん」


 美香ちゃんが心配そうに聞いてくれたが、私の意識は半分射的の方に向いている。


 「笹竹さん射的やりたそうだもんね。じゃあ行ってくるよ」


 岡本君が少し笑ってそういい、美香ちゃんと歩いてヨーヨー釣りのほうに行ってしまった。岡本君の後姿を眺めていたら、ちょっとだけヨーヨー釣りに行けばよかったかなと後悔したが、後の祭りだった。今夏祭りだけど。私は吹っ切るべくいそいそと射的の列に着いた。


 「こと、やっぱり射的やりたかったんだ!あのフィギュアほしいんだろう?」


 後ろから声がして、一瞬俊介の事を忘れていた自分に気が付いた。そうだった。そういえばこいつがいたんだ。むっとして俊介をにらむと、俊介がほら見ろといった顔をした。私はつんと澄まして俊介を無視していたが、俊介は暇つぶしか私に話しかけてきた。


 「おいこと、まだあの戦隊もの好きなんだ!」


 「昔ずいぶんはまってたもんな」


 「俺が取ってやろうか?」


 はじめこそつんと澄まして俊介を無視していたが、次々に話しかけてくるので、私はつい言い返してしまった。


 「いい、自分でとるから」


 「こと、とれんの?」


 俊介の半分ばかにした言い方にカチンときた私は、俊介の方に体を向けてこぶしを握り締め言い放った。


 「絶対あのフィギア取ってやる!」


 俊介は私の闘志満々な声に、ちょっとだけ笑ったがなぜかその様子を見てふと目を細めていった。


 「ことって変わってないな」


 「変わってなくて悪かったね」


 私も言い返してやった。そうしているうちにやっと私の順番がやってきた。


 射的のピストルを握る手に力が入る。いや、入りすぎてしまった。思いっきりあのフィギュア狙い一択でいったのに、フィギアにはかすりもしなかった。しかしほかのお菓子に当たり、なんとゲットしてしまった。お店の人にお菓子を入れた袋を手渡されたとき、すごいね!と称賛されたが正直少しもうれしくなかった。


 「はあ~」


 私はすごすごとお菓子の袋を抱え、俊介が射的をやるのをぼーっと見ていた。しかしそれはすぐに驚きに代わってしまった。俊介があのフィギュアを当てたのだ。これにはお店の人も驚いて、すごいね!と少し顔を引きつらせながらフィギュアを俊介に渡した。


 「これとお菓子、交換してやろうか」


 ヨーヨー釣りのところにとぼとぼと歩いていると、隣で歩いている俊介が私に言ってきた。俊介の顔を見ると少し得意げだった。


 「いらない!」


 私はそういうと少しだけ早歩きをした。しかし今日は浴衣だったので、早く歩けず結局俊介と隣を歩くことになってしまった。


 「これやるよ」


 「いらない!」

 

 歩きながらそんなやり取りをしていると、ちょうどヨーヨー釣りが終わった美香ちゃんと岡本君がいた。二人楽しそうに話している。見ると二人ヨーヨーをひとつづつ手に持っている。岡本君がこちらに気が付いた。


 「笹竹さ~ん!」


 岡本君が手を振って合図してきた。美香ちゃんも聞いてきた。


 「二人とも射的で景品とれたの?」


 どうやら私と俊介が持っている袋に気が付いたようだった。


 「うん、私はお菓子だけど」


 私が心なしが元気がないのを見た美香ちゃんが俊介に言った。


 「葉ケ井君は?」


 「俺はフィギュア!」


 得意そうに俊介が美香ちゃんと岡本君に見せた。


 「あれ、このフィギュアことちゃんが好きなのじゃない?」


 フィギュアを見て美香ちゃんがいってしまった。


 「だから、こと。やるって言ってんだろ!」


 俊介がまた私に得意げに言うので、思い切り言い返してやった。


 「い ら な い !」


 私と俊介のやり取りを見ていた美香ちゃんと岡本君は、ふたり目を合わせ苦笑いしていたのだった。




 

 

 

 



 

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