第21話夏祭りでもう失恋です
今度は四人で金魚すくいをやるために金魚すくいのお店に向かった。
「ことちゃんすごいんだよ。金魚すくい得意なの」
美香ちゃんが半分ふてくされて歩いている私を励まそうと、岡本君たちに言った。
「そうなんだ?」
岡本君が美香ちゃんに聞いてきた。
「そうなの。前に一緒に行ったとき何匹も取ってお店の人が困った顔してた」
美香ちゃんが私をよいしょしてくれた。そうなのだ。私は金魚すくいは得意だ。あのそおっとポイを水に入れる技術をみんなに今日も見せてやるかとひとりにんまりした時だった。
「へえ~、そりゃあ楽しみだ」
俊介が私のにんまり顔を見て挑戦するように言ってきた。俄然私の闘志があふれてきた。やってやろうではないか。
私は金魚すくいのお店にずんずん歩いていった。後ろから俊介が何やら言っているが知ったことではない。金魚すくいの店に着くと、やはり人だかりができていた。列に並んでいる人も多かった。私は列に並んだ。私のすぐ後ろに俊介が付いた。慌てて私たちの後を追ってきた美香ちゃんと岡本君も並んだ。
「ちょっと入れてくれる?」
美香ちゃんが俊介の前に割り込んできた。美香ちゃんが私に話しかけてきた。
「ことちゃん、ごめんね。なんかけしかけっちゃったみたいで」
私が美香ちゃんの顔を見ると、美香ちゃんの眉が下がっていた。
「いいよ。俊介に目にもの見せてやる!」
私は美香ちゃんに握りこぶしを突き上げてやった。俊介はといえば岡本君と話していたので、私が振り上げたこぶしを見ていなかった。
ついに決戦の時がやってきた。お菓子の袋を横に置いて浴衣の袖を上げる。
私はポイを握りしめる。ちょっと離れたところに俊介の姿があった。見てろよ、目にもの見せてやる。私はポイに金魚を入れてぽいぽいお椀の中に入れていった。その様子を見ていた人たちから声がしだした。
「すご~い。あの子すごいよ」
「あっ、ほんとだ」
「何匹も取ってるね」
私を称賛する声にいい気持ちでいたら、何やら聞き捨てならない声がした。
「ねえ、あっちの子もすごいよ」
「ほんと、あの子イケメン!」
「どっちが多く取ってるのかな」
一部何やら変な声が聞こえてきたが、私はみんなが見ている方をちらっと見た。そこには、お椀の中にぽいぽい金魚を入れている俊介の姿があった。
私は負けるもんかとポイに力を込めた。それがいけなかった。ポイが破れてしまった。
そこかしこからため息が聞こえた。もちろん私も大きなため息が出てしまった。
「やっと終わったね」
店のおじさんがほっとした顔でお椀と敗れたポイを受け取った。金魚をビニール袋に入れてくれた。赤い小さな金魚が何匹もビニールの中で泳いでいた。
「すご~い」
美香ちゃんが急ぎ足でこちらにやってきた。後ろに岡本君もいる。
「そっちもやっとかね」
どうやら俊介のポイも敗れたらしい。俊介も金魚をビニール袋に入れてもらいこちらにやってきた。
「二人ともすごいね」
岡本君が私と俊介の金魚の入ったビニール袋を見て感心したように言ってきた。私はちらっと俊介の持っているビニール袋を見た。何匹なんだろう。気が付けば俊介の金魚をガン見していた。同じように俊介も私のビニール袋を見ていたようだ。
「どっちが多いのかなあ」
岡本君の何気ない一言に私と俊介は、はっとして自分の金魚を数え始めた。
負けた~!負けてしまった~!
私の方が二匹少なかった。がくっと肩を落とした私に岡本君が私の肩をそっとたたいていってくれた。
「笹竹さんすごいよ。僕なんてほら、二匹だけ」
岡本君のビニール袋の中には赤い金魚がすいすいと二匹泳いでいた。私は岡本君の励ましに嬉しくなって、笑顔になった。岡本君と笑いあう。
「私も!ほら」
美香ちゃんも手に持っていたビニール袋を上に掲げた。岡本君と同じで二匹だった。
「楽しかったね、ことちゃん!」
いろいろあったが、私も楽しかったのでうなづいた時だった。
「おい、岡本もうしたのか?」
不意に俊介が岡本君に言った。岡本君がえっという顔をする。
「何だ、まだなのかよ。俺たちお邪魔だから帰るわ。早く告れよ」
俊介の言葉にびっくりする。コクル?こくる?告る?
えっ____?!
私がびっくりしすぎて固まっていると、不意に肘でつつかれた。美香っちゃんがにんまりと私をつついてきた。
私?私なの?ほんとに?
浴衣着てきてよかった!どんな顔すればいい?と思った時だった。
「こと、お邪魔だろ!早く帰るぞ!」
俊介がそういって私の腕をとりずんずん歩いていく。私は何が何だかわからないまま俊介にひかれていった。後ろで岡本君の私を呼ぶ声が聞こえた気がした。たぶん気のせいだ。
俊介に腕をひかれながら、だんだん状況が理解できてきた。周りの景色がなんだか滲んでよく見えない。気が付けば涙が次々あふれてきて止まらなくなった。
周りの景色は、いつの間にか神社のにぎやかな声と提灯の明かりが消えて街灯の明かりだけになっていた。
私は思わず立ち止まった。今まで私の腕を握っていた俊介が動かない私に気づき、俊介の足も止まった。私は俊介の腕を振り払おうとしたが、なぜかがしっとつかまれていてほどけそうにない。
「は”な”し”て”よ”-。う”で”-」
涙声で俊介に言った。私の声で俊介は私が泣いていることに初めて気づいたようだった。
「泣くなよ!」
俊介は怒ったように言い、私の腕をひっぱった。
「だ”っ”て”ー」
私は俊介に涙でぐちゃぐちゃの顔を見られるのが嫌だった。それに何より失恋を知られたのが嫌だった。
「これやるよ。だから元気出せ」
俊介は、もう片方の手に持っていた射的でとったフィギュアが入った袋を私に押し付けてきた。
「帰るぞ」
「は”な”し”て”よ”-」
俊介はそういうと黙って私の手をひっぱって歩いていく。私も最初こそ抗ったが、引っ張られるまま歩いていった。ずびずびと鼻水をすする私の鼻の音だけが、夜道に響いていた。
気が付けば私の家の前についていた。玄関の前で、俊介の手が私の腕から離れた。
「じゃあな、今日の浴衣の恰好かわいかったぞ」
俊介は踵を返すと、走って去っていったのだった。
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