第14話消しゴムはおそろいで

 代表委員会が始まった。岡本君はまだ来ない。三年生が司会進行をしてまず一年生の代表に運動会の感想を発表してもらっていた。

 

 私が間に合わないなと思っていたら、ガラッと扉が開いて岡本君が顔を出した。三年生のほうに向かって頭を下げて、すぐこちらにやってきた。私のほうを見てうなづいてから、すぐに座った。

 座るとすぐ三年生の司会者に、運動会の感想を聞かれたので、岡本君は落ち着いた様子で話し出した。来たばかりなのに、堂々と発表する岡本君をぼーと見ていた。かっこいい!きっと顔がものすごく緩んでいたに違いない。 

 ふと強い視線を感じて、そちらを見ると俊介が唖然とした顔で私を見ていた。私は、なんだ~と一瞬ガンを飛ばしそうになったが、先ほどまでうかつにも見せてしまった自分の顔を思い出した。岡本君を見ていた顔は、今俊介がしている唖然とした顔よりよほどひどかったに違いない。私は急いでまじめな顔を作って、頬を指でぎゅっとひねった。この痛みできっと私の顔はしゃきっとするに違いない。

 すると、今度は横から視線を感じた。いつの間にか発表を終えていた岡本君が私を見ていた。なんてこった!岡本君が、頬を自分でつねってる私の奇行を見て目を見開いている。私は岡本君の顔を見て、つねっていた指を急いで机の下にしまった。焦った私の顔を見た岡本君は、にこっと笑ってくれた。


 「もしかして眠くなっちゃった?」


 岡本君はいい方に誤解してくれたので、私はついうなづいてしまった。おもわず赤面してうつむいてしまった。その時、なんとなく俊介の視線を感じた、気がした。


 代表委員会が終わり、私は机の上にのっていた文房具を片づけた。一応書くために文房具を出してはいたが何も書いてはいない。まあ優秀な岡本君がいるから安心している。片づけているとふと私の机の上を見ている岡本君に気が付いた。


 「ねえ笹竹さん、その消しゴム今流行り?」


 岡本君が私の持っている消しゴムを指さした。


 「うん、これね。流行りみたいだね」


 私はにんまりしながら言った。最近女子力アップのため女の子達の話をよく聞いていてよかったと思った瞬間だった。


 「これ妹も持ってるんだよ。でも笹竹さんのちょっと色が違うね」


 「うん、これ限定品なんだ!」


 私は消しゴムを手に取ると、岡本君の鼻に押し付けた。あまりに意気込みすぎて岡本君の鼻にスタンプのように押し付けたようになってしまった。しまったと思い慌てて消しゴムを岡本君の鼻から遠ざける。


 「ごめんね。痛かった?」


 「ううん全然!」


 岡本君はさわやかに笑顔で行ってくれ私は一安心した。


 「で、なんかあるの?」


 「うん?何か匂わなかった?」


 私は慌てて消しゴムの匂いを嗅いだ。この消しゴムはなんとラーメンの匂いがするのだ。これまた本格的なにおいで私のお気に入りだ。お腹が空いているときにはとても使えないが。余計お腹がすくので。

 ただ喜々として買った時、美香ちゃんたちはなぜか微妙そうな顔をしていた。私はこの匂いを気に入ったが、美香ちゃんをはじめほかの子達は別のフルーツやお菓子の匂いの消しゴムを買っていた。

 

 私は何の反応も示さない岡本君にを見て、今度は自分の鼻に消しゴムを近づけたが、あんまり匂わない。私は、そうだ!とひらめいて、筆箱の中から定規を取り出し、定規を消しゴムに強く押し当ててのこぎりのように前後に動かして真っ二つに切った。そして片方の消しゴムの匂いをかくと、そこからは新鮮なラーメンの香りが匂ってきた。


 「これならよく匂うよ」


 なぜか唖然としている岡本君の鼻に、真っ二つになった片割れの消しゴムを近づける。今度は先ほどのミスを挽回すべくそおっと近づけた。岡本君の形のいい鼻が、少し動いてクンクン匂いを嗅いだ。

 その様子に私は一大仕事をを成し遂げたかのような満足感に襲われた。

 そんな私の顔を見て岡本君はぷっと吹き出した。私がいきなり吹き出した岡本君に目を丸くしていると、岡本君が言った。


 「ラーメンの香りだね。でも消しゴム真っ二つになっちゃけどいいの?」


 岡本君は私の消しゴムの心配してくれるいい人だった。


 「いいのいいの。よかったらあげようか?ただしお腹が空いたときに嗅ぐと余計お腹が空いちゃうけどね」


 「ありがとう。でもいいの?」


 「大丈夫、もう一個買ってあるから」

 

 そうなのだ、この消しゴムは実はうちにもある。匂いがとても気に入ってもう一個買ってしまったのだ。

 

 「そうなんだ。じゃあもらうね。ありがとう」


 私が真っ二つになった消しゴムの片方をあげると、岡本君はニコッと笑いながらもらってくれた。私はいい仕事をしたと心の中で喜んでいると、また視線を感じた。ついそちらを見ると、まだ部屋に残っていた俊介がお腹を抱えて笑っていたのだった。なんだ?

 そんな挙動不審の俊介を無視して、私は岡本君と自分のクラスに戻っていった。

 

 


 


 

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