第15話夏祭りは一緒にどうですか

 岡本君と教室に戻ると、美香ちゃんが私の帰りを待っていた。美香ちゃんも他の係りの委員会が終わったところだったらしい。岡本君はこれからまだ用事があるとかで、部活に行くとのことだった。


 「笹竹さん消しゴムありがとう!じゃあ。田野村さんもまた!」


 岡本君は私と美香ちゃんに挨拶をして教室を後にした。美香ちゃんは岡本君がいなくなるとすぐさま聞いてきた。


 「なに?消しゴムがどうかしたの?」


 私は教室に私たちのほかに誰もいないのを確認して、筆箱からおもむろに真っ二つになった消しゴムをじゃ~んといった効果音付きで美香ちゃんに見せた。


 「この片方を岡本君にあげたの」


 「えっ?」


 美香ちゃんの顔が?マークだったので説明してあげることにした。


 「わざわざ切ってあげたの?」


 「そう。いい匂いがしたよ。美香ちゃんも嗅いでみる?お腹がすくほどいい匂いだよね~」


 私がクンクンと消しゴムを嗅いでいる姿を見て、美香ちゃんがあきれたように言った。


 「ことちゃん、もうちょっとかわいい匂いにすればよかったのに!」


 「かわいい匂いって?」

 

 なぜか少し怒ったように言った美香ちゃんに私が不思議そうに聞いたら美香ちゃんが答えてくれた。今度は少しあきれていたけど。


 「お菓子やフルーツの香りの事!」


 「この匂いもおいしそうだよ」


 「もう!そういう事じゃないんだよね」


 美香ちゃんはなぜか疲れたような声を出したので、私は美香ちゃんの機嫌を損ねないように話を変えた。


 「美香ちゃん、この消しゴムお揃いになっちゃった!好きな匂いだし嬉しいかも~」


 私がそう言ったら美香ちゃんは一言だけ言った。


 「よかったね」


 なぜか棒読みだった。もっと喜んでくれてもいいのに。私がちょっとすねたのを感じ取った美香ちゃんが私の肩をたたいていった。


 「もう帰ろうか。また雑貨屋さんいこう!」

 

 「いいね~」


 私のテンションが上がった。ふたりで下駄箱に行くとちょっと離れた廊下に岡本君がいた。挨拶しようとしたら、俊介となにか話しているようだった。あの二人仲よかったっけ?ちょっとだけ疑問がわいたが、すぐに忘れてしまった私だった。


 そうしているうちに待ちに待った夏休みがやって来た。夏休みは部活と学校のプールで忙しい毎日だった。学校の補習にも参加した。久しぶりに会った岡本君はよりかっこよくなっていたように感じた。

 私といえば部活とプールでよけい日に焼けて健康優良児そのものになっていた。

 部活やプールが休みの時には、美香ちゃんやほかの子達とショッピングセンターの中にある映画を見にいったり、雑貨屋さん巡りをしたりして大いに夏休みを満喫した。

 

 もうすぐお盆が始まるという時、美香ちゃんがものすごいことをやってくれた。

 お盆の前の最後の補習の時に、席が自由なので美香ちゃんと座っていたら、ちょうど私たちの前に岡本君が座った。岡本君は私たちに気が付いて、筆箱から消しゴムを取り出した。


 「これ使わせてもらっているよ。よく消えるよね」


 そうなのだ、この消しゴムは匂いだけではなく消しゴムの役割もじゅうにぶんに果たしているすぐれものなのだ。私は気をよくして、岡本君に筆箱から新しい消しゴムを取り出して見せた。


 「これも限定品だよ。今度は、リンゴ飴の匂いがするんだ!」

 

 岡本君はくすっと笑ってからいった。


 「佐竹さんて食べ物好きだね」


 岡本君の何気ない一言で、私は気づいてしまった。そうか岡本君から見れば、私ただの食い意地の張っている子にしか見えないよ~。私はそれに気づいてしまい、急にしゅんとなってしまった。

 岡本君はちゃんと空気を読める人なので、自分の言った言葉で私がしゅんとなったのがわかったのか、慌ててフォローしようとした時だった。


 「リンゴ飴といえば、ねえ、お盆にここのそばにある神社の夏祭りあるでしょ。岡本君行く?私とことちゃん行くんだけど一緒にどう?」


 私はびっくりしてしまった。美香ちゃんとそんな約束してたっけ?私がびっくりして美香ちゃんを見ると、美香ちゃんはすました顔で言ったのだ。


 「岡本君も誰か誘って一緒にどう?」


 美香ちゃんは畳みかけるように岡本君に言った。岡本君はなぜか少し顔を赤らめた。あれっ、私が岡本君の顔を凝視した時だった。


 「いいねえ。俺も混ぜて。いいだろ、岡本!」


 不意に声がしてそちらを見ると、声の主は俊介だった。私がいやそうな顔をしたのにも関わらず、岡本君が返事をする前に美香ちゃんがいってしまった。岡本君はといえばまだ顔が少し赤かった。


 「じゃあ葉ヶ井君。一緒に行く?」


 「ああ、行く!」


 俊介は私のほうをちらっと見て、私がいやそうな顔をしているにもかかわらず勝手に決めてしまった。


 「決まりね!」


 びっくりしている私と岡本君を差し置いて、美香ちゃんと俊介がふたりで勝手に時間と集合場所を決めてしまったのだった。

 ふたりの話が終わった時、ちょうど補講が始まってしまったので、私は美香ちゃんに何も聞くことができなかった。


 「じゃあまたね~」


 「あ~あ、またな」


 補講が終わり、岡本君は俊介に引っ張られ、私は美香ちゃんに引っ張られながら帰っていった。

 


 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る