第7話私のお披露目会2
私たち三人が、控室でのんびりしていると、しばらくして係りの人が呼びに来た。これから別の会場で立食パーティーを行うらしい。
母に催促されて、私は重い重い腰を上げた。のろのろと会場に向かう。途中母にもっと早く歩くよう促され最後は小走りで行かされる羽目になった。
会場の前に着くと大きい扉が閉まっていた。係りの人たち二人がその大きい観音扉を開けると、スポットライトが私たちに当たり私たち三人はスポとライトをを浴びながら入場した。
私は急に浴びた明かりに目を細めながらしずしずと歩いていった。また会場の一番奥のほうに向かう。歩いている中、いたるところから声がした。
「これまたかぐや姫様にそっくりだ。さぞお美しくなることだろう」
「本当にかぐや姫様にそっくりだ!」
皆私を見ては口々にいろいろなことを言っている。ただどの人の口からもかぐや姫という言葉が出ていた。
-なんでかぐや姫の顔を知ってるの?
私が聞こえてくる声に一番最初に感じた疑問だった。
会場の一番奥の方に向かうと、そこには父とおじいちゃんが立っていた。今日はパリッとしたスーツ姿だ。父は私たちが到着すると、手に持っていたマイクで挨拶を始めた。
「今日は私共の娘笹竹琴子のお披露目式においでいただきまして、誠にありがとうございます。どうぞこれからも温かく見守っていただきますようよろしくお願いいたします」
私は、いつもになく堂々とした様子で、会場の人たちに挨拶をしている父を見てびっくりした。そして前もって聞いていた通りぺこりと頭を下げると、会場中割れんばかりの拍手が起こった。
それから家族みんなで会場中を歩き回った。テーブルすべてを縫うように進んでいく。私はただ挨拶してくる人たちに頭を下げるだけだったが、私を見る人見る人が、皆先ほど言っていたのと同じ言葉を言っているのにはびっくりした。
会場を回っているときに私はふと、なんだかどこかで見たことのある顔が、いくつもあるのに気が付いた。皆自分の父やおじいちゃんとおなじ年頃の人たちだったが、誰だっけと考える暇もなく頭をペコペコしなくてはならず、そのうちに忘れてしまった。
あとおじいちゃんを見て会長と呼ぶ人や父を見て社長と呼ぶ人たちばかりでそれにもびっくりした。
-お父さんやおじいちゃんて会社なんて持ってたっけ?
今日のお披露目会では?マークばかりが浮かぶことになったのだった。
父とおじいちゃんを会場に残して、私と母そしておばあちゃんの三人は、一足お先に会場を後にした。先ほどまでいた控室に向かう。そこで私はやっと着物から解放された。
「お母さん、お腹空いた!ねえお父さんたちを待ってないといけないの?」
母とおばあちゃんも着物から洋服に着替えていた。
「先に食事していていいといわれているから、行きましょうか!」
母もやはりお腹が空いていたようで、ウキウキといい三人でホテル内の和食処へ向かった。
予約してあったようで、母が名前を言うとすぐに個室に案内してくれた。席に着くとすぐお茶とおしぼりが用意され、次々にお料理が運ばれてきた。
そのどれもがおいしくて無我夢中で食べていると、デザートが来たところでやっと父とおじいちゃんがやってきた。
「「お疲れ様です」」
母とおばあちゃんがそれぞれの伴侶に声をかけた。
「ことちゃん、頑張ったね」
「着物姿かわいかったよ」
父やおじいちゃんはそれぞれにねぎらいの言葉を受けた後、今度はふたりで私をねぎらってくれた。
おいしいデザートを食べ終えお腹いっぱいになった私は、気になっていたことを聞いてみることにした。
「ねえお母さん、さっきの会場でみんな私を見てかぐや姫に似てるって言ってた。それとお父さんやおじいちゃんに社長や会長って言ってたよ。変だね」
私の疑問に父がいつになくまじめな顔をして言ってきた。
「ことちゃん、そのことなんだけど今日家に帰ったらお話ししようか」
私は気軽にうなづいた。それと一緒にもう一つ気になることがあった。
「お父さんやおじいちゃん、今から食事運んでもらうの?私たちもう食べっちゃったよ」
私の素朴な疑問に、急に笑い出した父とおじいちゃんは言ったのだった。
「私たちの食事の心配をしてくれてありがとう。私たちは料理を持って帰るよ。夜の分のお料理も頼んであるからみんなで食べよう」
「夜の分のお料理って何?また和食?」
「いや、今度は洋食と中華だよ。もちろんデザートもあるよ」
「えっ~ほんと?楽しみ~」
父の言葉に単純な私は、先ほど自分で言った疑問の事もすっかり忘れてしまい、今夜食べる食事の事しか頭になかったのだった。
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