第6話私のお披露目会1
そうして楽しかった小学校生活が終わり、中学生になった。
ただ小学校の子達がそのまま中学校に行くので、顔ぶれは全く変わらない。他の小学校からはこの中学校には来ないのだ。
だが、私服から制服になってちょっとだけ大人になった気がした。我が家でも特に父の要望で、入学式の前日に我が家で私一人の制服ファッションショーが行われた。二世帯住宅なので、普段仕事であまり会うことのないおじいちゃんも今日は観客で参加している。
お父さんは、もうファッションショー専属のカメラマンだ。いろいろな角度から撮影してくれている。しかしあまりにポーズの要望が多いのとポーズをとっているのが長いのでうんざりして、最後の方にはなんだかしかめっ面の写真が何枚も出来上がってしまった。もういい加減にしてほしい。
入学式には仕事で来れないお父さんの代わりにおばあちゃんが代わりに来てくれた。悔しいことに顔も頭もいい葉ケ井俊介が一年生代表で挨拶をした。これに喜んだのは女子たちだ。みな俊介の制服姿にかっこいい!を連発していた。ちなみに私には一部の女子から、ぜひ今度男子の制服を着てみてほしいとの謎の要望が多々あったらしい。美香ちゃん情報だけど。
あれから葉ケ井俊介とは全く話をしたことがない。小学校最後の春休み、子供会で行った遠足でちょうど私が一人になった時だった。
「おい、こと。前の事なんだけど...」
俊介が私に話しかけてきた。私はまた変装した私の事を聞かれるのがすごくいやで、慌ててみんなの元へ走った。後ろで俊介の私を呼ぶ声がしたが、ひたすら無視したのだった。ただほんの少し、ほんの少しだけ何を話そうとしたのか気になったことは事実だ。しかしまた変装した私の事を聞かれるぐらいなら、俊介と話をしないほうがよほどいいと思った。その時にはなぜだかわからなかったけれど。
みんなの元へ駆けて行きながら、なんとなくわかった。
絶対に認めたくはなかったけれど、たぶんあれが私の初恋だったのかもしれない。それがわかったのも、恋ばなをみんなが話しているのを聞いていたせいだと思う。これは、さすがに誰にも言ってないけれど。
私の初恋は、桜の花のようにはかなく散ってしまった。まあ咲くこともなく蕾のままぽろんと地面に落ちてしまったというほうが早いのだが。
「どうしたの?琴子ちゃん、なんだか泣きそうな顔をしているよ」
「何でもないよ」
すごい形相で走ってきた私を見て、美香ちゃんが言った。なぜか私の後ろを確認している。美香ちゃんは私の後ろをすごく気にしながら、ほかの女の子達のところに私をひっぱっていった。
中学校では、私はあいかわらず女の子にはモテていた。しかも部活をソフトテニスにしたので、日焼けしやすいのかすぐに健康的な肌色になってしまい、たくましい女子になってしまったようだ。自分ではわからないからこれまた美香ちゃん情報だけど。
だいぶ中学生生活に慣れてきたとある日曜日、前からさんざん両親に言われていた私のお披露目会があるとのことで、朝から着物を着せられている。
最近は部活を頑張っているので、肌の色が健康的になってあんまり着物が似合わない。あんまりといったが、本当はかなり似合わない。着物の色が薄い桜色で、変身したときの私ならかなり似合うと思うのだが、中学校に入ってからは学校を休みたくないので、とにかく温室の竹を煎じてもらって飲みまくっている。だから満月である今日も変身していない。やったね!
お披露目会ということで、せっかくこの地域では一番大きいホテルにやってきたのはいいけれど、慣れない着物を着ているせいで、ホテルに来たばかりでもうお疲れ気味だ。うっすらとした記憶だが、前にもお披露目会とやらをやったことがあったような気がする。その時には小さかったからか着物を着ていなかったが。
お披露目会の会場は広かった。なぜか私と母とおばあちゃんの三人は、会場奥のひな壇に上がってそこに用意してある椅子に座った。前を見ると、何百人だろうか。すごい人数の人たちがきれいに整列して座っていた。さながら学校で言うところの朝礼の様だった。さしずめ自分の場所は教師がいるところ、特に校長先生の場所に近いなあと思った。ひな壇だけど。
そして司会進行役の人が挨拶をして、まずおばあちゃん、母、そして私を紹介していった。私たちがみんなのほうを向いて頭を下げると、私たちひとりひとりにみんなが拍手してくれる。
事前に名前を呼ばれたら頭を下げるだけでいいと聞いていたので、こんなひな壇にいるのだけど、緊張はそうしていない。
父とおじいちゃんを探すと、私と目が合ったとたん一番前に座っていた父が手を振ってくれた。
司会者の人がまた私たちの名前を言い、私たちは拍手に包まれながら会場を後にした。一番後ろの私がドアを開けて廊下に出るときに、なんだか聞いたことのある会社名と会長の名前を司会者が紹介していた。
その時ちょっと聞こえてきたのは、おじいちゃんと同じ名前だった。私がすごい!おんなじ名前なんだと一人感心しているうちに控室に着いた。
「疲れたかしら?ことちゃん」
おばあちゃんがげんなりしている私に聞いてきた。
「ううん、お辞儀しただけだもん。けど着物姿がつらい~」
「もう少し我慢してね。お食事会までは、着物でいなくてはいけないから」
「えっ~、それじゃあお料理食べられないよう」
私が情けない声を出したせいで、母とおばあちゃんはこらえきれず大笑いをした。
「大丈夫よ、ことちゃん。お食事は着替えてからゆっくり食べられるから。お部屋を別に用意してあるのよ。これから始まるのは、お食事といっても立食パーティーだから」
「わかった」
私の苦行はまだまだ続くのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます