2. Aporia

ㅤなんとか、雨の中警備に当たっていた男らに立ち合うことができた。

ㅤ事情を説明し、その場を後にしようと考えていたが、ユークは女に袖を掴まれ耳元で囁かれる。


「あなたも保護してもらわないと怪しまれますよ」


ㅤ確かに、その通りだ。

ㅤとはいえ、事情を説明できるほど冷静であったユークは吸血鬼ではないかと疑われ、結局検査を受けることになった。


ㅤしかし、ユークにとって検査は意味がない。

ㅤというのも、ユークは純粋な吸血鬼ではないため、体内の分泌物や構成物による検査ではまず吸血鬼だとバレることはないのだった。ユークがソルテから信用される理由のひとつだ。

ㅤ表情が顔に出ないとよく言われますからと冗談で茶を濁し、恋人だと思われたユークと女は同室で保護してもらうこととなった。


ㅤソルテにどう説明したものかと、ユークは天井を見上げた。

ㅤ雨足は強まる一方で、建物のどこかで雨水が一定の間隔で落ちてくる音が聴こえる。身体の芯から冷えるような寒気がした。


「どうして、私を助けたんですか?」


ㅤ疑心暗鬼な目でユークを見つめる女に、彼は一度目を向けるもすぐに正面へと向き直した。

ㅤそんなこと、自分にだってわかりやしない。

ㅤそれは、知れるものならユーク自身が知りたいと思えるほどの、黒々とした蟠りであった。

ㅤしかし、彼女に対しては明確でいて、不安の拭える答えが必要だろう。


「これ以上事件を起こされちゃあ、僕たちはいつか見つかって、殺されてしまうから」


ㅤ彼女の表情を窺うに、納得したようには思えない。

ㅤユークは、心の中でため息をついた。生身の女は苦手だ、と。


ㅤ静寂な空間だったが、間の抜けたお腹の音が鳴った。ユークのものだった。

ㅤ日頃から少量の血しか飲まないツケが回ってきたというわけだ。

ㅤ女が恐る恐るといった感じで、飲みますか、と言った。

ㅤユークは、思わず苦笑する。


「──人間の女の血は、だいたいヤクより高い。聞いたところによれば、殺さずに血だけを飲もうとすると、吸血された側が大抵何かしらの感染症になる。だから、血を飲むときは、ひと思いにナイフで刺すわけだが」


ㅤそれでもよければ、とユークは返した。

ㅤ緊張や恐怖がない混ぜになったのか、お互い変な笑いにつられてしまった。



ㅤ保護施設から出られたのは雨上がりの早朝で、警備に当たっていた男には送っていきなさいと告げられた。

ㅤ仕方なく彼女を送ろうと思うものの、その彼女にユークは引き止められる。


「あの、ご迷惑だとは思いますが、匿って欲しいのです」


ㅤもはや、変な笑いしか出てこなかった。ㅤ

ㅤ一切の事情を尋ねずに、二人は青白い空の下の街へ繰り出した。

ㅤすでに心の準備ができていたことに、彼自身が驚くのだった。

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