バイオロイドは人と眠る夢を見る
伽月
第1話
六月二十九日。
肺にべっとりと重くこびり付くような、息がしずらい夏がくる。
シャツが肌に張り付いて気持ち悪い夏がくる。
汗でうっすら透けた肩紐をみて友達とにやにや猥談する夏がくる。
自転車押しながら長い長い坂を上って自販機に売ってる缶ジュースを飲んで、きらきら光る海を見て、そろそろ夏休みだな、なんてぼんやり思う夏がくる。
毎年みんなで花火大会に行く夏。
毎年みんなでプールに行く夏。
夜中に家を抜け出して、コンビニで買った花火を公園で二人きりでやる夏。
遊び帰りに長い長い坂を上って、自販機に売ってる缶サイダーを飲んで、きらきら光る海を見て、遊び疲れてぼけた頭で、
そろそろ夏休みが終わるな、なんて思う
そんな夏はもう二度と来ないけれど。
さらさらと細かい砂が足の指の間を通って抜けて
ちょっぴり冷たい海水が気持ちよくて
汗ばんだ体を冷やすような生温い風が気持ちよくてちょっと肌寒くなって、
俺の右手を握る__の手が生温かくて。
服を着たまま深い所まで、もっと奥へと進む。
脚に絡む砂とゴミが気持ち悪くて、腹まで届いた海水の冷たさにびっくりして鳥肌が立つ。
ひっ、と声を上げると__が ふふ、と笑う。
何笑ってんだよ、と言うと__はだって、と返す。
「何でそんな泣きそうな顔してるの」
「ほら、大丈夫。泣かないで」
にこにこ笑いながら俺の頬を服の袖で拭う。
すごく優しい表情を浮かべて俺の目を見つめる。
泣いてなんかいないのに涙を拭う__には何が見えているのか、少し怖くなった。
「は、何?どしたの、氷雨」
「ごめんね、玲緒」
「何度も何度も辛い思いをさせちゃって、ごめん」
「次は絶対上手くいくから、きっと」
「大丈夫、また逢えるよ」
「だから、俺の事覚えていてね」
悲しげに、困ったように笑って氷雨は俺の胸をどんと押した。
バイオロイドは人と眠る夢を見る 伽月 @xxx_xa
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