第16話 コロナ戦争・驕ったアメリカ、まさかの展開。
アメリカが動けば世界が動く。武漢の驚くべき展開、10日で病棟を作るという映像。封鎖された中で取り残された自国民、米国政府は、1月28日、武漢にチャーター機を飛ばし、武漢駐在の米外交官とその家族195人を米国に連れ戻した。29日日本政府も第1便を飛ばした。世界各国はこれに続いた。
2月2日午後5時 トランプはいち早く大統領令により、アメリカ国籍以外の者の中国全土からの入国を禁止した。習近平との4月会談を配慮した日本は武漢のある湖北省からの入国は禁止したが、中国全土までには踏み込めなかった。
中国へ遠慮のいらないアメリカは水際作戦で一早い対応を取り、トランプは、アメリカは大丈夫と大見えを切った。
2月3日横浜港に着岸したクルーズ船の対応には、アメリカの有力紙ニューヨーク・タイムズ紙は専門家の見方として、「公衆の衛生に関わる危機について、『こうしてはいけない』と教科書に載る見本だ」と伝えた。この時、日本のメディアはアメリカにはCDC(アメリカ疾病予防管理センター)があって、日本にもこのような組織が必要だと報じた。脅威となる疾病には、国内外を問わず駆けつけ、調査・対策を講じる上で主導的な役割を果たしている。 本センターより勧告される文書は、世界共通ルール(世界標準)とみなされるほどの影響力を持ち、実際に日本やイギリス等でも参照・活用されている。軍民が一体となり、組織力、予算規模においても世界でも群を抜く存在だと報じられていた。
アメリカより前に、イタリアのロンバルディア州で感染爆発が起き、封鎖状態となった。封鎖から富裕層(ミラノやベネチュアの金持ちは凄い)は南部に逃げた。あれよ、あれよと云う間に感染は全国に広がった。報じられる映像はまるで武漢のようであった。それはEU欧州全域への感染を予感させた。私はこの時点で、アメリカまで広がれば、リーマンショックどころではない世界はコロナ恐慌になると、この連載で書いた。アメリカも感染からは逃れられないとは思ったがまさか、ここまで弱さを露呈するとは予想だにしなかった。
アメリカが試される時が来た。その名も姉妹船『グランド・プリンセス』であった。54国籍の乗員1,111人、乗客2,422人の計3,533人、ダイアモンド・プリンセスとほぼ同じ乗船者数であった。3月9日、アメリカ・カリフォルニア州のオークランド港に入港した。コロナ対策指揮官としてトランプはペンス副大統領を直々に指名した。ペンスはアメリカは十分な検査キッドを持っている、検査は大丈夫と胸を張った。日本から学習していたのか、乗客は下船させて米軍基地に、乗組員は船にと分けた。まずは船上の武漢にはならなかった。ただ、陸では許されなかった。
アメリカで最初の感染が確認されたのは1月21日のワシントン州スノホミッシュ郡であった。2月25日までにアメリカで確認された感染者は53人。CDCは同日、アメリカ国内での感染拡大は避けられないと警告を発した。サンフランシスコ市長は、市ではまだ感染確認はされていないが、、中国のつながりや、両地域を行き来する人の数の多さを考慮して、新型コロナウイルスに対する非常事態宣言を早々に発表した。サンディエゴ市もこれに続いた。感染拡大を受けカリフォルニア州知事は3月4日、州全域に非常事態宣言を出した。続いて7日、アンドリュー・クオモ知事は非常事態を宣言。ニューヨーク州で初の感染者が確認されたのは3月1日である。初動としては決して遅くはない。
しかし、サンフランシスコ市や同市が属するカリホルニア州とのこの僅かな差が後にニューヨーク州に大きな惨状をもたらすことになった。。
ニューヨーク州で、9日には感染者数で日本を越し、3月末29日には、会見で、クオモ知事は州内の感染者が前日から7195人増え、59513人になったと発表した。死者は同237人増の965人。ピークは2~3週間後に訪れる見通しで、「何千人もの人(州民)が命を落とすだろう」と語った。新型コロナは感染力だけでなく、一端加速した時のスピードは驚異的で、対策が後手後手に回り、追いつかないものになった。4月5日においては、ニューヨーク州は感染者11万4174人、死者3565人に上っている。深刻な人工呼吸器不足に陥っているニューヨーク州に中国から1000台が贈られ、クオモ州知事は謝意を述べた。
CDCがありながら、なぜアメリカでかくも急速に感染が拡大し、多くの死者を出すに至ったのであろう。これについて、専門家は初期の検査体制の不備、遅れを指摘している。CDCが独自開発にこだわった(WHO基準でない)検査キットを2月第1週に全米の各州に送ったが、正しい判定結果が出ないものが多数あり、使い物にならないことが分かり、多くの州で検査できない状態が続き、検査態勢が整ったのは3月に入ってからであった。この間CDCによる検査は1日100件程度に限られ、対象も中国をはじめとするアジアからの帰国者やその接触者に限定された。
それから、トランプ大統領を筆頭に、国民一般も新型コロナ感染症を対中国蔑視も含め、アジアの一角中国、韓国、日本で騒いでいるもの的な見方があった。
ある元ビジネスマン(70歳)はこう述べている。「新型ウイルスはまさに21世紀のイエローぺリル(黄禍)だね。アメリカを抜き、超大国になると自負してきた中国だが、ひと皮剥くと、国内の衛生管理や感染防止は後進国並み、中国は今や軍事大国、経済大国だと、聞いて呆れる」と。これは彼に限らず多くの国民が共有するものであったろう。それが、イタリアが炎上し出してから、「ちょっと違うな」と危機感を募らせて来た。
そして、2月26日の「インフルエンザと思ったら新型コロナ肺炎かもしれない」とCDCはテスト検査実施を開始した。アメリカではインフルエンザで死者は年間1万5千人を超えていた。新年を越してからはひょっとして新型コロナ感染ではないかと噂されていたのである。
遠いところのものとして危機感を感じていなかった証拠として、『謝肉祭を開催したルイジアナ』が挙げられる。
人口456万人のルイジアナ州。ニューオーリンズでは、2月24日、例年通り盛大なマルディグラのカーニバル(謝肉祭)が行われ、約140万人の旅行者でごった返した。CDCが警告を発した前日であった。その2週間後から感染者が出はじめた。4月3日現在、州の感染者数は1万297人に膨れ上がり、死者も370人に上る。うち3476人がニューオーリンズでの発生で、感染者急増の「ホットスポット」になってしまった。
ニューオーリンズのカントレル市長は、「トランプ政権が新型コロナウイルスの危険について早期に警告していてくれれば、マルディグラは中止していた」と連邦政府への不満を隠さなかった。
3月13日に入って、トランプ大統領は全米非常事態宣言を発令した。
4月10日現在。
ニューヨーク州では死者数7067人。前日より799人増え、1日の増加数としては過去最多。病院の遺体安置所がいっぱいになり、冷蔵トラックに遺体を運び込んでしのいでいる。葬儀場も新たな受け入れが難しくなっている。
全米では感染者469,021 死亡者16,675、感染者数ではイタリア、スペインを抜いて1位。死者数ではイタリアに次いで2位である。トランプ大統領は死者10万で収まれば上出来だと言っている。日本で首相がこんなことを語れば、一瞬にして首が飛ぶ。コロナ戦争に立ち向かう大統領として支持はまだ落ちていないと云う。何ともアメリカという国は!
世界最高の軍事力、世界のGDPの4分の一を占める経済力をもってしても防ぎきれなかったコロナ。なぜかくも惨憺たる状態を呈しているのか、かくもアメリカは危弱であったのか?検査体制の失敗だけでは済まされない。もっと根本的な、根底からの問題がありそうだ。
根本的な負に思い当たる。極端な格差社会。一部の富裕層の下に広がる広範な貧困層の存在。その多くがスパニックや黒人たちである。そして国民皆保険を拒む民間保険が中心の医療保険制度がある。人口の15%(5000万人ほど)は、無保険状態である。この中には不法移民1,110万人、アメリカ人口の3.5%を占めると推定される存在がある。彼らは病気にかかっても、病院には行かない。べらぼうな高額医療費は払えないし、仮に払えても、不法移民が分かり強制送還されることを恐れる。
1965年に高齢者のための医療制度メディケアと、貧困層のための医療制度メディケイドが導入されているが、メディケアでは平均的な加入者の医療費の48%しかカバーしていない。半分は民間保険を使うしかない。メディケイド(4,300万人)では不法移民らがこぼれる。
新型コロナは貧困層、ヒスパニック、黒人、不法移民らを直撃した。ニューヨーク州では、死亡者数の7割は彼らが占めるとされている。これについてクオモ州知事は、テレワーク等が使える層と違って、彼らは働くために外に出て行かざるを得ないと分析している。自由を信奉しているアメリカではあるが、死ぬ自由もまた格別なのである。一党独裁体制共産党の中国が何とか強権で抑え込んで、2か月半ぶりに武漢封鎖を解除したとき、アメリカはトランプが「武漢ウイルス」「チャイナウイルス」と揶揄したウイルスとの戦いの真っ最中にある。
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