第9話 揺れる音は夏の音

 安物の景品のスピーカーからの音。

 お世辞にも良い音なんて言えない音。


 なのに、いつもの音はノスタルジックなレコードのように唄う。


 懐かしい夏の匂いがする。


 恋におちて、もがきながら息をする。あの嫌な夏の匂いがする。



 人は恋をすると同時に何かを思う。

 そして、知らなくてもいいことにも出会う。


 成長なんてしない。

 僕はそうだった。


 夏に雷鳴が轟き、あっという間に辺りが暗くなり、大粒の雨が道路を濡らす。

 いきなり降った雨が埃と焼けたアスファルトに焦げた匂いがする。


 君はこの匂いが嫌いだと言った。


 僕はこの匂いが好きだった。


 その瞬間に何かの割れた様な音がした。

 雷が落ちた音だった。


 夏は暑いだけじゃない。色々なモノを見せてくれる。それをもう少しだけ君と見ていたかった。そう、見ていたかったんだ。



 僕は夏が嫌いで、好きだった。






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非日常に溺れる日々は 櫛木 亮 @kushi-koma

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