第8話 貴女と歩いた坂道は

 生きているのに死んでるみたい。


 楽しいことをしているのに、もう次の日のことを考えている。

 はち切れそうな快感の中で、もう嫌な思い出に潰されそうになっていた。


 生き方が下手。いまさら。

 知ってた。ちゃんと僕は知っていた。


 そんな僕にも忘れられないことがあるんだ。


 いっしょに歩いた道。いっしょに登った坂道は、とても暑くて陽炎が揺れていた。

 空には嫌ってくらいに綺麗な青があって。オレンジみたいな太陽とわたあめみたいな濃い雲が浮かんでいた。


 遠くから匂う海のにおい。

 生暖かい風が身体にまとわりつくようだった。



 ねえ、ちゃんと息はできている?



 ねえ、今も笑ってる?

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