咲かせ続けることに疲れました。

鬼灯

日記


3月10日

愛する人を殺しました。


3月11日

今日も貴方は皮肉なほど綺麗に咲いています。


3月12日

昨日よりも少し元気がないように見えます。

死んだ人間に元気も何も無いのかもしれませんが。


3月13日

水をあげてみました。

貴方が笑ってくれたような気がします。


3月15日

貴方が使っていた薬品を適当に使ってみました。調子はどうですか。


3月16日

昨日の薬品のせいか、花々は倍の量になって咲き誇っています。

よかったですね、貴方。



3月23日

薬品のせいで花々が育っていくと、貴方の面影が消えていくような気がするので、やめます。



3月25日

今日も変わらず、私の周りのものは花に姿を変えて逝きます。



3月27日

貴方の机の引き出しから、可愛いらしいペンダントを見つけました。見飽きた青色の花が入っていますね。

私はこの色が嫌いです。



3月30日

貴方に水をあげます。


3月31日

貴方に水をあげます。


4月1日

季節はしっかり春になり、森は鮮やかな彩りを描き初めました。

私は変わらず、貴方に水をあげます。



4月3日

貴方に水をあげます。


4月7日

貴方に水をあげます。


4月9日

貴方に水をあげます。


4月10日

貴方に水をあげます。


4月11日

私はこの色が嫌いです。


4月12日

貴方に水をあげます。


4月13日

貴方に水をあげます。


4月14日

私はこの花が嫌いです。


4月15日

貴方に水をあげます。




4月16日

私は、私のことが嫌いです。




4月27日

私はもう一度、夫のことを殺すでしょう。

唯一私を愛してくれた大切な人を2度も手にかけるのです。


4月30日

あと5輪。


5月2日

あと4輪。


5月3日

あと3輪。


5月4日

あと2輪。



5月5日

あと、



『あと1輪だね。』


『この花が枯れたら、きっと僕らはもうお別れなんだろうね。』


枯れないで欲しい。


『枯れない花があればよかったのにね。』


枯れないで。


『花が枯れなければきっと、誰も季節が変わることになんて気づかないんだから。』


・・・・・・。


『もうそろそろ行かなくちゃ。』


行かないで。






その時吹いた、目を開けていられないほどの風はきっと、私がかけた呪い。





『綺麗な花だね。』


うん。


『ずっと見ていたいよ。』


うん。


『ずっと、一緒に見ていてくれる?』


うん。


『君と居られれば、ずっと幸せだ。』



うん。私もよ。








5月6日

もう枯れてしまった貴方に抱かれ、健気に咲く最期の1輪を、手に取った。


私は、愛する人を殺しました。







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咲かせ続けることに疲れました。 鬼灯 @yuuue

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