十八匹目 十二不思議『音鳴館』 その②

 巨大な四足獣が次に取った行動は、門の前に立つ洋善達に大きく開いた口を向けることだった。

 その喉奥には大きな筒──砲口が覗いている。

 それを視認した時には、既に砲口から弾丸が放たれていた。


「まさか、粍さんが吹き飛んだのもアレの所為ですか……!?」


 数秒前の光景を思い出しながら、洋善は『ウール・チェイン』の壁で砲弾を受け止めた。壁の向こうで爆音が鳴り響き、灰色の煙が辺り一帯を埋め尽くす。

 煙──先ほどの砲撃ではなかった筈の現象に違和感を感じた洋善は、慌てて己とねむりの背後、頭上、左右にも『ウール・チェイン』の無敵の盾を作り出す。数秒後、何かが右方の綿の群れにぶつかった。

 洋善は額に滲んだ汗を拭いながら、ほっと一息つく。


「最初の砲撃はただの目くらましで、本命は煙に紛れての攻撃でしたか……危ない危な──」


 次の瞬間、足元のコンクリートを突き破って夥しい数の針が現れた。

 密閉された空間内にいる洋善とねむりは、それらから逃げることも出来ずに体を貫かれる。


「ぐげぇあっ!?」体内のあらゆる内臓に一瞬で致命傷を負った洋善は、血が混ざった声を漏らした。「こ、これはもしやあの化物の髪!?」


 針が持つ銀色の光沢は、たしかにあの怪物の毛の色と同一だった。


「針金のような髪を地面に潜らせて、唯一『ウール・チェイン』のバリアが張られていない足元から攻撃したというわけですか……」  


 それを理解した所でもう遅い。

 この状態から勝つどころか、逃げ出せる手段すら見つからない。

 このままではあと数分もしない内に死んでしまうだろう。

 穴ぼこだらけになった体は、痛覚というアラートを鳴らして──


「あれ? 全然痛くない?」



 洋善が体中が針で貫かれてもちっとも痛くないことに気付いた瞬間、場面は洋善が『音鳴館』の門に触れようとした所まで巻き戻っていた。


「? ?? これはいったい……」


 困惑する洋善。

 今起きた不可思議な現象に対し、視覚を失っているねむりも同じようなリアクションを取っていた。


「時間が巻き戻った? ──それとも、


 目が見えずとも、自分の体を貫いていた針が消えれば流石に何かがおかしいことくらい分かる。

 

「おーい」


 考察するねむりの頭上から、声がした。

 間延びした声である。

 

「尺里粍か」

「おー。顔を見ずとも気が付くなんて、さーすが羊野ねむりだ──あっ、今のお前は目が見えないんだったな」

「もしかして、この現象はあなたの仕業なの? ──いや、違うか」ねむりは首を横に振る。「あなたの宇宙夢『ロードオブメジャー』は物体の長さを変化させるだけの能力。それをどう応用しても、こんなことはできるはずない」

「? なーにを言ってるんだぅっ、げぶぎゃあああああああああああああーああああああああ!!!!」


 尺里粍は爆死した。

 下手人は見るまでもなく、屋敷の庭にいる怪物だった。


「またアレですか! おそらく私の『ウール・チェイン』やれいらさんの『アンビリーブ・バイブル』と同じく、『音鳴館』の住人の宇宙夢で具現化された怪物なんじゃないですか?」

「うん、そうだろうね──アレ?」


 ねむりは違和感に気が付いた。

 

「どうしてれいらさんの宇宙夢をあなたが知ってるの?」

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