ダークサイド・ダイアローグ Ⅱ

「ひとつ目に必要なものは『我の目』だ」


 ルビースニーカーは妖しく光る瞳を細めながら言った。


「正確に言えば、我の目に宿る力だな」


 ルビースニーカーは己の『意識』を世界に溶け込ませ、肥大化させることで常人よりも広い範囲で世界を認識するという宇宙夢とは別の『力』を持っている。

 その名も望遠卿エンドレス・ホープ

 そんな瞳で周囲を見ている彼女は、凡人とは違う次元で生きているのだ。


望遠卿エンドレス・ホープの力はこの世界の特異点そのものだ」

「だから、この世に地獄を生み出すという大いなる変化には欠かせないキーアイテムというわけね」


 聞き手の女は腕を組んで納得した。


「力が無ければ我の目であっても必要条件を満たせない。例えば、我が今この場で望遠卿エンドレス・ホープの力を失ったり、バラバラ死体になって目だけが残ったとして、その目だけでは地獄に繋がる道は開かれないのだ」

「聞いているだけでゾッとする仮定ね」

「しかし逆に言えば、同じ望遠卿エンドレス・ホープであればそれが我の目である必要はないということだ──もっとも、そんな存在が容易く見つかりはしないだろうがね」


 己の同類を探し求めているルビースニーカーが言うと、重みのある言葉だった。

 鍋の蓋から蒸気が漏れる音が部屋に響く。まだ煮込み始めてからそう経ってはいないので、まだ話す時間は十分にあった。


「ふたつ目に必要な物は貴様だ」

「え? 私? ──ああ、もしかして、これのこと?」


 女はそう言うと、腕の一部をコスモ・トランスさせ、ルビースニーカーが読み捨てた雑誌に触れた。表紙にはとある芸術家の名前が記されていた。

 黒一色の腕を二回振る。すると、握られていた本は消えていた。

 

「人の『意志』や『力』を本にする能力が、まさか地獄に行くのに必要なんてね──こうしてちょっと有名な芸術家の記憶を本にして、おもしろおかしく読めるくらいしか使い道はないと思っていたのだけど」

「違う、必要な物はあくまで貴様自身だ」

「なんかプロポーズみたいで照れちゃうわね、ふふ」

「それ以上無駄口を叩くなら、我の『エンジェル・ギフト』で舌を噛むぞ」


 ソファの下の隙間から何かが這いずる音がしたので、女は口を閉じた。彼女はルビースニーカーがやると言ったら、どんなことでも必ずやる少女だと十分に知っているのだ。


「人の世に生き、神の法を学び、そして悪の性根を持つ人間が、地獄を生み出すために必要なのだよ。我が知る限り、そんな死んだ方が良い屑のような奴は貴様以外いない」


 貶されながら褒められた。


「とはいえ、貴様が最初にした勘違いもあながち間違っているとは言えないだろう。なにせ、『オニキス・クローゼット』の──我ほどではないが──強力な異能があれば、地獄に向かう間に立ちはだかるであろう数々の試練を突破するのに大いに役立つはずだからだ」


 

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