第二章 第四話

 それから、いくらか時間が過ぎた。結局仮眠は取れず、ただボーっと台湾での会談の事を考えていた。

 そして、ノックの音が鳴った。

「赤城一等。そろそろお時間です」

「あぁ、分かった」

 新兵だろうか。見知らぬ青年が、俺を呼びに来た。

 そして、俺はそのまま夜のミーティングへ向かった。


 第一ホールへ向かうと、前回の祝勝会よりは劣るものの、明るく豪勢な飾りつけが行われていた。先の海戦での疲れを癒す意味も込めて、今日のミーティングはパーティ風に行われる。

「あら、遅かったわね」

 いつも通り、肩に軍服をかけている凛々しい女がいた。

「今日はドレス着ないのか」

「当たり前でしょ?ただのミーティングなんだから」

「そっか……」

 至極当たり前の事なのだが、少し残念にも感じる。

「なになにぃ~?もしかして、前のドレス姿に惚れちゃった?一等海佐ともあろうお人が?」

 口元に手を置き、いたずらに笑みを浮かべる。

「ばッ!馬鹿も休み休みにしろ……」

 顔が少し熱くなるが、辛うじて平常心を保つ。

「それはそうと、幕僚長から聞いたわよ。明日からまたでるんですってね」

「あぁ、でも今回は戦いなんて起きないだろう。陸奥幕僚長の輸送作戦みたいなものだよ」

「その保証は?」

「ない」

 きっぱりと言ってしまう。よくよく考えれば確率的にはフィフティ・フィフティといった所だろう。でも一個人として帝国側を信じてみたい。こんなに主観混じりなのはいけないのだろうが、ただ、彼らに賭けたくなった、ただそれだけだ。

「そう。まぁ、敵が仕掛けてくるなら戦えばいいだけだものね。さてと、そろそろあなたのお時間じゃないかしら?」

「そういえばそうだな」

 俺は壇上へ向かう。

 そして、置いてあったマイクを取る。軍人だからといって肉声で叫ぶほど非効率なことはしない。

「本日付けで、呉総司令を命じられた赤城翔太一等海佐である。まずは皆、先の大戦ではよく戦ってくれた。礼を言う。ありがとう」

 拍手と歓声が上がる。

「そして、今日は皆に二つ伝えなければならない。まず一つ目だ。明日から新たな作戦を展開する。台湾へ向けて呉から一部隊派遣することになった。その艦を発表する。まず、空母かが、そして護衛艦、みねかぜ・しぐれ・あきしも・しらぬい、以上五隻である」

 隊員の中でどよめきが起こる。

「五隻で?」「空母一隻?」「みねかぜとしぐれって明日配属の……」「むらさめは?」

 予想はしていた。やはり、新しい情報が多くて混乱しているだろう。

「今回の作戦において、戦いは無いものと考えてくれ。だからこそ、この五隻だけでの出港となる。そして、二つ目だ。先ほどの作戦にむらさめが含まれていない事には気づいているだろうが、本日をもってむらさめは退役する事となった。原因は、船体の劣化である。レイテへの出撃の際から異常が認められてはいたが、今回の作戦でこれ以上の作戦行動への参加は不可と判断した。そして、その代わりに明日からみねかぜとしぐれが配属になる。よってみねかぜの艦長は私、赤城が務めることとなった。そして、しぐれの艦長には対馬三等に務めていただく。そして、しぐれにはゆうぎりのメンバーに乗ってもらう。事前に通告はしてあると、思うが気を引き締めて行動せよ。以上」


 この会談が和平交渉となればいいが、それは陸奥幕僚長と外務大臣の腕にかかっていると、いったところだろう。我々はあくまで護衛をして幕僚長と外務大臣を送り届ける。ただそれだけにすぎない。

 隊員の中にはまだ、喧騒が立ち込めている。無理もない。今日発表されて、明日出港だ、なんてあまりに唐突すぎる。

 それに、むらさめ・ゆうぎりの船員はなおさらだ。扱ったこともない船をいきなり実践投入だなんて、異例の中でも異例である。

 今回の作戦を遠洋演習と同じ扱いにする、という強引な俺の作戦だ。そうすれば一石二鳥でしょう?

 壇上を降りると、出雲二等がいた。

「航空隊は、いつも通りでいいのよね」

「もちろんだ。ただ、今回はひりゅうがいない。はくほうもだ。だからこそ、何かあった時は頼むぞ」

「私を誰だと思ってるのかしら?男は堕とせなくても、飛行機と船ならいくらでも堕とせるわよ?」

 さらっと、自虐していくあたり出雲二等らしい……

「ハハハ、余裕だな。じゃ、頼んだぞ和桜」

「あなたもね、艦隊の要なんだからね……翔太」

 二人で、自信満々な笑みを交わし、熱いキス……じゃなくて熱い握手を交わした。少し妄想が出てしまったこと、大変深くお詫び申し上げます。

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