第二章「変わらない世界、変わる日本」

第二章 第一話

 激戦からちょうど一週間が経った。

 佐世保の部隊と別れ、いよいよ呉がみえてきた。

「総員入港用意!!!」

 呉への入港を前に船員達があわただしく動き回る。

「帰ってこられましたな……」

「よく持ってくれましたよ」

 副長と言葉を交わす。「帰ってこられた」これは我々の生還を意味するのではなく。このむらさめが帰ってこられたことを意味している。

 空母から順番に呉に入港する。

 陸地ではまた呉の地域住民が日本の旗を振ってくれている。前回よりも数は増えている。空襲の被害に遭った呉鎮守府はすっかり修理されて、以前とは少し形は違うものの機能を取り戻している。

 むらさめが入港する岸に見覚えのある巨漢がいた。

「おや、陸奥海将ですな、久しぶりですな」

「全くですよ」

 俺や副長含め、呉の人間が最期に陸奥海将に会ったのはもうかなり前のことになる。ここを取り仕切らなければならない人間が一体何をやってるのだか……


 続々と艦隊が入港し、最後にむらさめが入港した。

 いつもとは違う呉の一番目立つ所へと。

「総員よくやった!!下船せよ!!」

 むらさめから続々と船員が呉へと降り立つ。中には無事生還できたことに喜びを感じ、涙を流すものもいた。

「さてと、我々もおりましょうか」

「そうですな」

「ん~~!艦長、副長お疲れ様でしたぁ!」

「あぁ、舵を握ってくれた事感謝するよ!」

「いえ、私の責務ですから!」

 そういって今井航海長が艦橋から出て行った。

 で、もう一人の長である男は、魂が抜けたように壁へもたれかかっている。

「岩波砲術長……下船なさらないのですか?」

「副長……帰ってきたと思うと、一気に疲れが来て動けなくなりました……たす」

「そうですか、それではごゆっくり」

 岩波が「たすけてください」という前に満面の笑みで会話を切った。副長は見かけによらず恐ろしい男だと再認識した赤城翔太こと俺であった。

 涙目で岩波が助けを求めてくるので仕方なく、負ぶってやった。

「ありがとうございます艦長!」

「俺が助けるとでも??」

 そういって、背負っていた岩波を勢いよく離した。すると、おしりから地面へと落ちて行った。

「イッテェ!何するんですか艦長!!」

「この世界はそう甘くはないぞ?」

「ケチ……」

「あ、今上官に逆らいましたか?あぁ、これは後が怖いですねぇ」

 副長が待ってましたとばかりに岩波を責める。

「ケチャップライスが食べたいなぁ~と思いまして!!!」

 焦る岩波、責める山道。勝利の女神はどちらに微笑むのでしょうか!!

「さてさて、おふざけはこのへんにして、本当に下船しましょう」

 三人で仲良く艦橋を後にする。


 降りた矢先、すぐに陸奥海将がいた。

「これはこれは陸奥海将。おひさしぶりですな」

 あえて棒読みでそっけない態度を示してみる。

「まぁまぁ、赤城君そう怒らんでくれよ!呉だけにな?」

 面白くないので、更に冷たい目で見る。

「呉を空けたことはあやまるよ。ただ本部での仕事がかさんでね……そうだ、君にも辞令がでているよ」

 そういって一枚の紙を渡された。

「これはどういうことですか?」

 渡された紙には『赤城翔太殿 貴官を一等海佐に任命する。本日付で日本国海上自衛隊鎮守府総司令官へ任命する。 以上 日本国海上自衛隊総司令部』と書かれていた。

「どういうことも……今日から君は一等海佐で、ここの責任者だよ」

「とうとう陸奥海将クビになったんですか??」

「人聞き悪い事言うんじゃないよ!!ほら俺はコッチ」

 陸奥海将が堂々とした態度で軍服のポケットから紙を取り出し、広げて見せた。

『陸奥吾郎殿 貴官を海上幕僚長へ任命する。 以上 日本国海上自衛隊総司令部』

「陸奥海将が幕僚長ですって?!長門幕僚長は一体どうされたんですか?」

 長門定頼ながと さだより海上幕僚長という人物がいた。彼は現在の自衛隊を作り上げたといっても過言ではない人物である。もうそこそこの老人ではあるが、まだとびぬけた思考回路は実在である。そんな海上自衛隊になくてはならない人物が……

「長門前幕僚長は、退官なさったよ。これからは若者の時代だとおっしゃって。そして、君のお父さんが就任する予定だったんだけど、彼は断ってね。私は最前線で戦う男だ。って言って聞かなくて……それで私になったわけだ」

 お父さんが断ったのか……納得だ。戦いに生き、戦いで散るような人物だから……

「それと、赤城……」

「はいッッ!」

 突然の陸奥海将の呼び捨てに思わず背筋が伸びる。

「そういえば、お前……ゆうぎり沈めただろ?どういうことだ?」

「あ……」

 忘れていた。ゆうぎりは、陸奥海将が初代艦長を務めた船で、なによりも陸奥海将が大切にしていた想い出の船だったことを……

「いや、あの、それはそのぉ~あ、そうだこの後報告書を書かないと!失礼します!!」

 鞄を持って、全速力でその場から立ち去る。陸奥海将の怒りを買うと最後なんだよなぁ……想像を絶するお仕置きがまっている。

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