第一章 第十九話

 航空隊は発艦し、まもなく敵艦隊が目視できるという時間帯。

 航空隊からの連絡はまだ入らないが、こちらは航空隊収容完了からすぐに動けるように着々と艦隊を進める。今回作戦に参加しているドイツ艦隊には空母がおらず、砲撃戦のみでの援護を要請している。あくまでも協力してくれるだけなので、彼らに損害を出すことは好ましくない。なるべく中国艦隊のヘイトはこちらに向かわせなければならない。

「対艦ミサイル発射用意!航空隊帰投後すぐに発射できるようにしておけ!」

 と、言ったもののまだしばらく時間はある、20分くらいはあるだろう。

「航空隊出雲機から入電!!“我レ攻撃ヲ開始ス”」

「了解!艦隊両舷微速よーそろー!陣形崩すなよ」

 航空隊からの入電を合図に艦隊は再度交戦海域へと進む。

 今日の波は穏やかだ。戦いが繰り広げられるなど、この海の生物は予想だにしていないだろう。この海を汚さないためにも、はやく勝利を収めよう。もう血など見たくもない。


 出雲機の入電から10分少々。

 いまだに続報が入らない。少しずつ、焦りと不安が胸を埋めていく。一艦隊司令官の前に俺は一人の人間だ。家族を失うことはもちろん、和桜を心配するのは仕方がないという事だ。落ち着け……

「出雲機から入電!!!“トラトラトラ!敵護衛艦二隻轟沈確認”」

「二隻轟沈か……了解!収容しだい砲撃戦に転じる!いよいよだ!総員戦闘配備!繰り返す、第一次戦闘配備!」

 二隻の轟沈か。致し方ない。

 頭を覆っていた艦長帽を胸の前までおろし、前方の海へしずかに敬礼をした。どうか、安らかに眠ってくれ……


 そしてまた10分の時が過ぎた。

「編隊みえました!」

 双眼鏡を見ながら岩波砲術長が声を上げる。

「ほんとに損害なしで帰ってきましたね。一機も黒煙を上げてないとは、見事なものです」

 副長は双眼鏡を持たずに、そういった。

「え?見えているんですか?!」

 俺の視界には何も映らない。じーっと凝らしてみてもやはり見えない。双眼鏡で見たって豆粒のように見えているだろう。

「視力には恵まれておりますので。この目で培った観察力のおかげでここまで上り詰めたようなものですよ」

 これは驚いた。あっぱれ、の一言ですかな。

 それにしても昨日の第二次航空隊であんな大損害を被ったのが嘘のようだ。海に散った彼らも精鋭ではあった。でも、各隊のナンバー3までで隊を組むとこうも違うものなのか……恐ろしい以外の何物でもない……

「ドイツ艦隊に、作戦開始と伝えてくれ」

 通信使は忙しそうに手元をカチャカチャといじり始めた。おそらく中国艦隊は、ドイツ艦隊の存在に気づいているだろう。条約違反の衛星を使えばおちゃのこさいさいか。


 少しずつ艦載機が収容されていく。一番初めに着艦した黄色のラインのSW-20の操縦士から通信が入る。

「こちらむらさめ 赤城だ。ご苦労であった」

「先ほどの報告通り護衛艦二隻の轟沈を確認。そして、敵空母の甲板無力化は未達成であります。無効化に成功したのは護衛艦三隻のみです。艦尾に撃ち込み、スクリューの故障による減速を確認。しかし、轟沈した上に第一目標の未達成。私の落ち度です申し訳ありません」

 珍しく出雲が悔しそうにしている。作戦成功率100%の出雲が失敗したんだ。そうなっても仕方がないだろう。それに、恐らくその失敗のどちらもやったのは彼女じゃないだろうし。護衛艦三隻の無効化、出雲・土佐・相模の機体の戦果だろう。見なくてもわかるさ。

「了解!まぁ、そう落ち込むなよ、もう時は戻らないんだ。君たちが無損害で帰ってきてくれたことが一番だよ。それに護衛艦三隻無効化だけで立派な戦果じゃないか。よくやった」

「は!お褒めのお言葉感謝いたします」

 そして通信は切れた。本当なら、こんな落ち込んでいる和桜を今すぐにでも抱き締めて慰めてやりたい。でもここは戦場だ。恋心が交錯してはいけない場所。

 深く息を吐き号令をかける。

「艦隊全速前進よーそろー!!対艦ミサイル撃てぇええ!」

「了解!一番、二番うちかたはじめぇ!!!!!!!」

 岩波砲術長の声で、後ろから水を得た魚のように勢いよく二つの飛翔体が空を泳ぐ。

 主砲が互いに火を噴くのはまだ早いが、現代の砲撃戦は二段階。従来の主砲による砲撃戦に加え、ミサイルなどが飛び交う遠距離戦。現代技術の発達によって、その距離は東京大阪間の距離でも行うことが出来る。さすがにそんな装備はまだ開発段階であるので、どの国も実戦配備することが出来ていないが。

 しかし、もうすでに通常のミサイル兵装を交える海域に来ている。彼らのホーミングミサイルがとんでくるのも時間の問題だろう。

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