第一章 第十七話

「この航路だと、敵増援機の可能性もあるかと思われます」

 作戦会議が始まって早30分。ルソン島からの増援機や中国本土付近を航行中の中国護衛艦など、敵本隊以外の様々な部隊の事を考慮していき、いまだに航路が決まらないという次第である。

「敵本隊は現在香港方面へ向け撤退中。このままでは本土沿岸の部隊と合流されてしまいます」

「ん……」

「おまけに、ルソンからの支援機大隊も出撃準備をしていると、フィリピン政府から忠告がありました。これはかなり厳しい状況かと……」

「ん……」

 副長と通信使からの言葉が頭に響く。最善策が思い浮かばない。

「ん~、副長、フィリピン政府は軍を動かせそうにはありませんか?」

「残念ながらフィリピン政府が持つ軍隊は彼らに対抗できません。たとえ動かしても時間稼ぎにもならないかと……」

 やはり、ダメか。彼らが強力な軍を持っているなら、そもそも中国に航空基地占領など許さないか。ん~そうだよねぇ~

「艦長!ドイツ艦隊シュナイダー司令から入電です!」

 作戦会議に参加していた通信使が勢いよく、ヘッドフォンを外し叫ぶ。

「ドイツ艦隊?こんな時にどうして?」

 ドイツ艦隊は日本国陣営ではあるが、こんなクソ忙しい時に一体なんなのだというのだ。


 疑問を抱きつつも、俺は通信使に連れられ艦橋へ戻る。正面上部のモニターには、ドイツ海軍の若き天才 シュナイダー司令が堂々と映し出されていた。

「シュナイダー司令。お初にお目にかかります。日本国海上自衛隊呉艦隊臨時司令の赤城翔太二等海佐であります」

「やぁ、Mr.赤城!お話できてうれしいよ!で、さっそくなんだけど、Now meの艦隊はパラワン島にstayしてマース!でUNからの要請を受けて、現在You達の援護に向かってるんだけど、meはどうmoveすればいいかな?」

 UN……?!国連が中国相手に戦うことを認めたというわけか!それでたまたま近くにいたドイツ艦隊を動かしたと!

「シュナイダー司令!!ご協力感謝します!現在新作戦の会議中ですので、もうしばらくお待ちください。大まかな作戦概要につきましては今送ります。シュナイダー司令の艦隊の状況をお知らせいただけると助かります」

「了解デース!」

 ドイツ艦隊は世界でも五本の指に入るすばらしい艦隊だ。WWⅡで海軍の弱さが問題になり、戦後急ピッチで開発しただけの事はある。枢軸国時代から仲良くしている一つの大切な同盟国。

 俺は心の中でDankeと呟いた。


 会議室に戻ると、先ほどまでの熱は冷め返り静寂に包まれていた。

「艦長……やはりどれだけ試算しても、大損害が出ますよ……」

「そうか……でもな、聞いて驚くな!偶然近くを航行していたドイツ艦隊が加勢してくれることになった!!」

 みんなが一斉に目を見開いてこちらを見る。

「まさか、あのドイツ艦隊が…………」

 そんな雰囲気を切るかのように手をパンっと勢いよく鳴らす。

「さぁ、作戦会議だ!一つ案がある、聞いて欲しい。航路はこのまま進み、北緯18度東経116度付近で接敵する。その際、後方からドイツ艦隊に砲撃してもらい、挟撃を仕掛ける。異論はあるか」

「ドイツ艦隊はこの予定に間に合うのでしょうか?」

「ドイツ艦隊にはすでに前の作戦概要を送ってある。現在も、その航路にのっとり作戦地点へ進軍している。多少の遅れは発生するが作戦遂行には十分間に合うと考える」

「うちの航空隊は、その間耐えられますか?」

「相模三佐中心に再編成を行ってもらっている。土佐三佐に出雲三佐もいるから心配ない。多少の損傷が出る可能性はあるが、今回に関しては致し方ないと考える。要は、ロスト機が出なければ問題ない。少しでも被弾したら帰艦という方針で飛行隊には命をだしている」

 これ以上ロストを増やさないことが第一だ。そのためには、最低限の攻撃に出る必要がある。攻撃は最大の防御。

 陽は少しずつ落ちてきている。明日の朝までに攻撃態勢を完全に整えることがマストになってくる。

「艦長、夜戦をお考えですか?」

「いや、明日の日の出前後に会敵を予定。中国海軍は先ほど減速を確認。先行させていた偵察機から情報が入った。彼らも夜戦には慣れていないから警戒序列での微速進行という訳だろう。それも含めてドイツ艦隊が間に合うという試算さ」

 夜戦はどこの国も嫌う。この進歩した技術で夜戦を行えば、自他ともに壊滅は避けられない。

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