第一章 第十六話

「帰艦中の第二次攻撃隊相模機から入電!“対艦ミサイルとすれ違った、進路良好“」

「そうか、もうまもなく第二次攻撃隊が帰艦する!各空母は準備されたし、医療班は早急に準備を!」

 第二次攻撃編隊とは少し外れたところで任務を行っていた、第二次攻撃隊相模隊は被弾箇所の多さから、一度ルソン島北部にあるラオアグ国際空港に着陸していた。ラオアグ国際空港はマニラの独立によって財政が圧迫されたことにより、管理費が捻出できないとのことで現在破棄されており滑走路だけが悲しく存在している状況であった。相模三等の交渉でフィリピン政府からは二つ返事で許可をもらった。

 しかし、無人空港。燃料も無ければ、医療機器もない。着陸して、応急処置を行って、使える機体で再編成をしただけだ。

 その影響もあり、攻撃から一時間以上たった今、母艦へ戻ってきている最中というわけである。

「相模三佐と繋げるか?」

「はい、少々お待ちを」

 むらさめの通信使が無線機をいじりはじめる。

「こちらむらさめ、相模三佐きこえますか?」

「こちら相模コネクト」

 通信使は親指を立てて合図する。

「相模三佐!第二次攻撃隊の状況は確認したが、相模隊の被弾状況は?」

「はい、10機のうち、2機をラオアグ国際空港にて破棄。現存機8機のうち6機は損傷軽微。2機がエンジントラブルを確認。操縦士はロストゼロ。重症が一名、軽症二名、そのほか私を含め無事であります」

 流石は相模隊というわけか。ここまで腕の差が出るとは。驚異の生存率100%か。

「了解だ、負傷者を乗せた機体から優先的に着艦せよ。着艦後、相模三佐はむらさめへ状況報告を頼む。ご苦労」

 了解と一言だけ返ってきた。そう。今回の作戦は第二次攻撃隊大編隊で敵を引き付け、隙を狙って相模機で電磁弾を投下。そして、相模隊の残りの機体で少し離れた場所から、ミサイルで援護という、なんとも新しい戦法を組み込んでいた。敵空母は今も進んできている。つまり電磁弾も効果を発しなかったというわけだ。


 彼女との通信から数分後。

「相模機……着艦しました」

「あんな手前で止めましたよ……一体彼女何者なんですか……」

 先に着艦して、甲板の真ん中で着艦後力尽きたSW-20が燃えていた。甲板が事実上使用不可に陥ったので、他の機体はかが・ひりゅうへと仮に着艦したが、相模機、つまりSW-21Sは世界に一つしかない機体なので整備するにもはくほうにのみ積んでいる機材が必要なわけで、はくほうの甲板に無謀にも着艦を試みた。彼女の腕なら当然とでもいうべきなのだろうが、甲板に触れる少し手前でエンジンを勢いよく逆噴射させ、花弁がおちるようにゆっくりと甲板へ後輪をつけ、見事燃えている機体につっこむことなく着艦した。

「とても人間業とは思えませんな」

「まったくですよ副長」

 むらさめの艦橋にいた全員の視線が、むらさめの右舷側を航行していたはくほうに向いた。

 脳内で、これは初めて出雲が負けるかもしれないな。と、勝手に二機の模擬演習を想像した自分がいた。


「相模です」

「赤城だ。先ほどの攻撃ご苦労であった。ところで状況は」

 あんな凄い着艦をしてから、まるで何事なかったかのように艦橋へ上がり無線を寄越してきた。

「はい。はっきりと申し上げますと、中国軍の武装は予想を大きく上回っておりました。条約おかまいなしの武装に、ルソンからの支援機。このままの進軍では艦隊全滅も時間の問題かと思われます」

 やはり、条約範囲内での行動ではさすがに勝てないか。これがひと昔前ならば、海上だけでのやり取りで終わった。しかし、今は宇宙空間までをも巻き込む。いくら精鋭をあつめても限度があるか……

「そうか……ところで電磁爆弾は?」

「電磁爆弾は敵空母に命中前に、敵航空機の体当たりにより失敗しました。空中で爆破したので、近くを飛行中の中国機を巻き込んで何機かは撃墜できましたが、空母にはかすり傷もつけられておりません」

 体当たり。ほんとになんでもありだな。と、そんなことを日本は言えた立場じゃないか……

「了解だ。相模三佐には再度隊を率いて出撃してもらう。それまで十分に休息せよ」

「了解」

 通信が切れるや否や一気に体が重くなる。作戦の再度練り直し、考えただけでも疲れてくる。リスク計算からなにまで、これも艦隊司令の大きな仕事か……

「副長、航海長、砲術長、通信使、第一会議に集合してくれ」


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