第一章 第六話

 同日 ヒトヒトヒトヨン 宮古島沖

「敵艦隊は、東シナ海より、西シナ海へ抜け、現在フィリピン海軍基地へ向かっているとの情報が偵察機より入っております」

 フィリピンか。フィリピンの海軍基地は、帝国によって建設された基地である。レイテに基地を移す前に使っていたもので、日本国側としても廃棄基地として、ノーマークだった。

 まさか、そこが裏で機能していたとは考えもしなかった。

 当然基地はフィリピン政府の承認もなく。重大な侵略行為である。フィリピン政府からは、攻撃の許可と奪還要請を受けている。

「了解。このまま連合艦隊は、台湾で補給を受け、西シナ海へと突入する。各艦、今後は作戦概要を参照して行動せよ。尚、航空隊に関しては土佐三佐の指示に従うように」

「「「「「了解!」」」」」

 呉艦隊に佐世保・小松の艦隊と岩国の一部の航空機が合流した。土佐など一部の航空機は、鎮守府復旧に駆けつけてくれたので、そのままかがに積んでここまで来た。和桜がわーわーと文句を言っていたが問答無用でのっけてきた。

 西日本最強の艦隊といっても過言では無い程の面子を集めたんだ。失敗は許されない。

 出雲に土佐、西の暴君こと尾張、そして、小松のエースパイロット 相模美来さがみ みく

 自分でも驚きだよ。あの相模美来が今回の作戦に参加してくれるんだから。研究者であり自分で開発した機体は自分で乗るとの我儘から、どんどん技術をつけて、日本の中でも五本の指に入る優秀な操縦者になったというのだから。いやはや、天才とは恐ろしいものだな。

 しかし、今回の戦いは40%で挑まなければならない。確かに、ここで手の打ちを全て明かすというのも戦術的にはあり得ないというものだ。

「赤城二佐少しよろしいでしょうか?」

 眼鏡に白衣というまるで軍人とは思えない研究者こと相模美来が話しかけてきた。

「これは、相模三佐。今回ははるばるありがとうございます!で、なんのご用件でしょうか?」

「今回は中国空母を叩くと聞いて参ったわけですが、実は先日新しい爆弾を開発しましてですね……是非その使用許可をいただきたいなぁ~なんて思ってるのですがぁ~」

 なんだこの生き物は。おねだりする小学生か?

「新型爆弾?具体的に」

 俺が尋ねると目を輝かせて喋り始めた。

「いやぁ~そんな大したものじゃないのですが、従来の爆発に加え、強力な電磁波を発するというものでございまして!被弾した艦を数分から数時間程度電子機器を制御不可にするというものなんです!!」

 ほう。電磁パルスを組み込んだという事か。

「で、成功率と爆破の威力は?」

「80% 威力は従来の0.98倍 といったところでしょう」

 0.98倍か。空母のカタパルトの無効化には十分といった所か。

「よろしい。一発だけ認めよう。そのかわり、味方機が安全域まで撤退後に限るぞ」

「もちろんですとも!ありがとうございます!」

 流石第一線で働く研究者だ。その好奇心は評価されて当然というものだ。


 艦橋に戻ると、山道副長と岩波砲術長がいた。

「どうだ状況は」

「台湾政府からの情報では補給量は十分ですが、なにしろレイテの戦いから時間が経ってませんから、損傷した護衛艦にガタがきてますね。ですが、幸いむらさめは大丈夫そうですね!先ほど前方主砲を回頭させて検査しましたが、そちらも問題なしです!」

 流石岩波砲術長。仕事がはやいな。

「艦長。どうしましょう?損害艦を台湾に残すという手もありますが」

 台湾に残すか。確かに足で纏いになる可能性がなくもないが、そこまで大きな損傷でもなく、自力航行可能なら連れて行く方がよいとも思う。損傷艦も大切な駒の一つだ。

「ちなみに損傷艦は?」

「きりしま・かすが・しののめ です」

 三隻か。かすが・しののめは対地特化型。今回の作戦においてかなり重要である。

「かすが・しののめの対地ミサイルの状況は?」

「一応射出可能です」

 射出可能か。最悪対地ミサイルだけ放って、その後船を捨てるという方法もある。

「よし。台湾にきりしまだけを残す。かすが・しののめはやはり今回の作戦に外せない。きりしまにはその旨を伝えてくれ」

「了解しました」

 山道が艦橋を出ていく。それを確認して俺は尋ねた。

「岩波。後方の20.3㎝単装砲の調子はどうだ?正直に答えろ」

 岩波は、頭をかいてこれは参ったとばかりの態度を示す。

「やはり艦長にはバレてましたか。後方の主砲はもう限界です。前回無理に三式弾を連射したので、ヒビがちらほらと……」

「やはりか。俺を誰だと思ってるんだ?進水した日からコイツと共にいたんだぞ?それに、岩波が空襲の時に後方主砲を使わなかったことも気がかりだったしな」

 そう。岩波は前回の空襲の時前方の主砲と左右の機銃だけで対応していた。それを俺は見逃さなかった。

 でも、これは非常にマズい。艦隊旗艦がもし戦線離脱なんて事があったら一気に指揮系統は崩れてしまう。だからこそ、この事実は隠すのが最善だろう。

「岩波。このことは砲術科だけで回せ。俺と副長と砲術科だけの機密とする。いいな?」

「了解です」

 やっぱりか、君も悲鳴をあげてるんだなむらさめ。

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