第一章 第五話


 空襲から二日後の朝。

 陸上自衛隊の協力もあって、呉は仮設の基地を作り、鎮守府としての役割を少しずつ取り戻していった。結局、中国との国交は断絶。中国が、大日本帝国への統治権譲渡を主張し宣戦布告。国際連合・アメリカからも、憲法九条には反しない、自衛の為の戦争として、交戦権を認められた。当然日本国内では大規模な暴動が起きる。しかし、首相の「悪いのは誰か?誰も、悪くない。人は、自らの主張がある。ぶつかり合うのは当然のことである。戦争という方法は決して最善策ではない。しかし、今戦わねば、日本はやられる一方だ。それでいいのか?」と言う演説へ賛同者が増え、国を掲げて大日本帝国の早期排除へ動き始めた。

 さて、そこからは話が早い。本日明け方に、総司令部から正式な作戦が伝えられた。岩国・佐世保・呉・小松の4基地での共同作戦。あくまで自衛の戦争なので米軍は、戦闘に一切協力できない。自分たちでなんとかするしかないとのことだ。明日早朝に出航し、豊後水道で、大阪南港での修理艦と合流。宮古島沖で、佐世保・小松・岩国の艦隊と合流。

 何故、小松基地なのか?って、答えは簡単。SW-20が佐世保・呉・岩国・小松にしか配備されていないからだ。確かに那覇や春日から出撃したほうが遥かに早い。しかし、旧型機しか配備されていないのが現実である。できるだけ被害を出したくない日本政府にとっては、新型機だけで、といった考えなのだろう。

 ともかく、明日まで時間がない。


ツーツーツー

「陸奥海将!赤城です!」

「よかった、無事防衛に成功したみたいだな!」

「いえ、損害は出してしまいました。大事なSW-20も何機か使用不能に……」

「気にすることは無い!最善の結果だと思うがね。ところで作戦概要は見たか?」

「一通り目は通しましたが?」

「そうか、ひとつだけ助言をしてやろう。40%の力で挑め」

 40%何を言っているのか理解できなかった。

「と、いいますと?」

「敵はまだまだ力を蓄えている。この一戦で100%の力を使ってしまうと、簡単にやられてしまう。多少の犠牲はかまわん。いいな、100%の力で戦うなよ」

 通信が切れた。多少の犠牲か……そんなこと、俺にはできないかな。


 翌日 マルヨンマルマル

ラッパの音が鳴り響く。

「しゅっこうよおい!錨あげええい」

 タグボートにむらさめが曳かれる。他の船も次々と海へ進んでいく。そして、むらさめとタグボートの縄が外される。

「両舷前進微微速!」

 むらさめのスクリューが勇ましく回転を始める。今回も頼むぞ。

 そう。俺はいつも船に話しかける。これは、和桜の教えからだった。彼女はフライトの前に必ず航空機に話しかける。大学校時代に何故かと尋ねたら『たかだか鉄の塊かもしれない。でもコイツは私のパートナーだから。製造段階でも、沢山の想いが込められている。そんな生き物なのよ。調子がいい時だって、悪い時もある。まぁ、なんていったって、私がこの子が好きだからよ』と返答された。確かにその通りだ。これを教えられた時から俺も話しかけている。でも、不思議なことにいつからか、むらさめが返答してくれているようにも感じる。

 全艦無事に出港したようだ。

「全艦に通達!第二警戒序列!東シナ海へ向かう!油断するな、各艦の航海の無事を祈る」

 むらさめ艦長兼艦隊司令という二つの役職を負っているからこそ分かる。今回ばかりは誰かが亡くなってしまっても不思議ではない。中国空母の威力は決して生半可なものではない。土佐も言っていた通り、この艦隊だけでは対処できるかわからない。そういったレベルの戦いである。


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