第一章 第四話

 あの襲撃から8時間。夜は明け、朝の陽ざしが顔を出す。

 結局あれから襲撃はなく、鎮守府の火災も無事消えた。ひりゅうのカタパルトに降り立った岩国飛行隊の土佐がもうまもなくむらさめへやってくる。

「失礼します!岩国航空隊 土佐三佐であります!」

 扉をあけると、すぐに俺を見つけ寄ってきた。

「赤城二佐。これはいったいどういうことでありますか……」

「まだ、本国からの発表はないが、中国が帝国側についていたようだ」

 艦橋でもそれを聞いた船員達がざわつき始める。

「みんな静粛に!これはまだ決定事項ではない。この件は艦橋外秘とする。いいか絶対に漏らすなよ」

 艦橋にいた船員に忠告する。

「山道副長。各艦の艦長を第一会議室に集めてくれ」

「かしこまりました」

「各艦は警戒態勢を怠るな」


 あれから30分程。

 やはり、敵のさらなる来襲の気配は無い。陸上自衛隊の応援も到着し、戦闘ヘリAH-1通称コブラも駆けつけてくれた。

「艦長諸君。この度の防衛ご苦労であった。なんとか、死者を出さずに済んだ。しかし、これは非常に遺憾な出来事であり、同時に長く続いた戦争がまだ続くといことを示した。まだ、正式な発表ではないが、中国が鯖江条約・日中盟約の破棄を発表した。つまり、中国は、帝国側を支援している、ということだ。先ほど、小松航空基地から東シナ海にて中国空母を確認したとの連絡が入った。もう、どういうことか分かるな?そうだ。大国中国とも戦わなければならない。これから先、どのような状況になるのかまだ分からないが、その覚悟だけはしておいて欲しい。そして、ここからが本題だ。今から補給を済ませ、大阪の艦船と佐世保艦隊と合流し、東シナ海の空母へ接近する。まだ本国から、攻撃許可は出ていない。対話が決裂した時点で、攻撃を開始。国連軍も派遣されるとの事である。いいか、これはあくまで自衛のためだ。敵のカタパルトの使用不可を第一の目標とする。以上。詳細は追って連絡する。まずは迅速な補給を!!」

「「「「は!」」」」

 艦長一同が一斉に会議室から飛びだしていく。

「なぁ、翔太。ほんとにどうなってるんだ」

「落ち着け土佐。そんな死ぬわけじゃあるまいし、まだ戦うって決まったわけでもない」

 いつもの明るい土佐ではなく、まるで小鹿のように怯えている小さな土佐の姿があった。

「だけどよ。翔太の予想が的中したって事だろ?と、なると帝国側はもうかなりの戦力を整えているんじゃないのか?そうなったら、いくら練度の高い呉艦隊だからって、一筋縄にはいかないぜ?」

 確かに土佐の言うことは的を射てる。資源を十分に持つ帝国にましてや中国が付くなど、数で押し切られるのは目に見えている。でも、やるしかない。俺らに選択肢など与えられていない。所詮は防衛省の犬だ。国を守るため、自分の責務を全うする。それしかない。

「お前の腕はなんのためについてるんだ」

「え……?」

 土佐に投げかけてみる。

「航空機を操るためじゃないのか?」

 土佐の腕はトップクラスだ。たとえ何機で畳みかけられようとも、それを跳ね返す力は十分に持っている。それは俺が胸を張って証明できる。

「そうだよ。そうだ!俺は土佐信二だ!!出雲なんて比にならない程の凄腕操縦者だ!やろう翔太!」

 笑顔が戻る。ほんとになんてお気楽な野郎なんだよ。でも、その笑顔に救われている部分があるのも否定できない。ありがとな土佐。


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