第一章 第三話

「どうしたの和桜」

 和桜は海の上を指さした。俺は、視線をそちらに移す。そこには闇に浮かぶ。攻撃機の大隊が見えた。

「な、なんだよあれ」

 アレは確実に海上自衛隊のものではない。あの少し丸い独特のシルエットは。紫電改二?!そして、その後ろには一式陸攻!?マズイ

 俺は勢いよく、ホールへ戻り、声を張る。

「緊急事態!!空襲警報!全員各艦に戻れ!!」

 なにが起きたのか理解ができない。敵はすべて叩いたはず。まさか、あの基地周辺の艦隊はデコイだったというのか。クソが。

 長年かけてきた計画も丸つぶれ。どうしてこうなった。どうして……俺は走って、むらさめへと向かう。


 副長と砲術長が先に到着していた。

「いつでもいけます!」

 山道副長が俺に告げる。

「全艦に告ぐ!対空戦用意!準備のできた艦から、順次出航せよ!全武装の使用をみとめる!なんとしても呉を守れ!!」

 帝国の奴ら、今日のこの日を狙ってやがったのか。迂闊だった。勝利に酔いしれて、今日は見張りを一人もつけていなかった。

 むらさめは、タグボートに曳かれて緊急出航。


「三式弾装填開始、うち~かたはじめ!」

 岩波砲術長の声が響く。

 平和だったはずの夜の呉に轟音が鳴り響く。

「艦長!かがの出雲三等から、エンジントラブル、並びにカタパルトの使用不能。艦載機発艦不可!との通達が!」

「なんだって!」

 護衛空母かがは、先の大戦後、修理ドッグへと入り、すぐに、整備がはじめられた。呉に帰投した船で一番損害があったからだ。そのせいで、カタパルトも大規模修理の準備のため、分解がはじめられており、使用不能。希望はひりゅうのみ。

「ひりゅうに艦載機発艦の指示を!」

「ひりゅうの松井一尉から、艦載機発艦不可との通達です!」

「何故だ!?!」

「ひりゅうの艦載機は、損害が見受けられたので、現在修理のために呉におろしております」

 山道が冷静に答える。そうだった。俺としていたことが忘れていた。落ち着け。

「了解!とにかく被害を最小に抑えるために、各艦はなるべく沖へ出よ!副長は横須賀へ連絡を!」

 三式弾が勢いよく各艦から飛ぶ。しかし、さすがは紫電改二。動きが速く鋭い。

 一式陸攻の下部が開く。

「衝撃に備えよ!!!」

 一式陸攻から、爆弾が投下される。次々と、海に落ちる。

「艦長!ダメです!弾切れです!!」

 先の海戦で撃ち込みすぎた結果か。これでは、他の艦も時間の問題か。

「全艦三式弾弾切れです!!次のご指示を!!」

 予想よりはるかに早かった。

「機銃にて対抗せよ!!主砲を徹甲弾に変更。当たらなくてもいい、邪魔をしろ!!」

「了解!!」

 徹甲弾で航空機を堕とすなんて無理な話だ。でも、少しでも数が減ればいい。

 先ほど、岩国に連絡をした。土佐が今すぐ向かうと返事をくれた。一時間。一時間持てばいい!

 そのとき、陸の方で嫌な音がした。爆発音だ。

「あぁぁ。ああああああ!」

 船員が動揺している。鎮守府に爆弾が落ちた。燃えている。まるで俺たちが燃やしたレイテのように。

「かがより入電!“我レ直撃弾アリ!炎上中”」

 和桜!!!!それしか頭になかった。

「撃て!撃ちまくれえぇええええ!」

 脳内がグルグルしている。何故だ。何故だ。俺たちは勝利を手にしたはずではなかったのか。

「艦長!横須賀の陸奥海将より連絡が入っております!」

「副長後は頼みます!」

「頼まれましたぁあああ!」

 俺は第一会議室へ走る。

「陸奥海将!!これはいったい!」

 横須賀からビデオ通話が入る。

「君の予想が的中したよ。今現在、中国政府が、鯖江条約からの脱退並びに日中盟約の破棄を発表した。やられたよ、帝国サイドに中国がついていたなんてね」

「じゃあ、これは」

「そうだよ、中国空母から出撃した機体たちだよ。小松から緊急発進した航空隊が現在調査に向かっている。とにかく、呉を守ってくれ!今から、再度横須賀では作戦の練り直しだよ。防衛省・外務省が今、中国本国とやり取りをしているけど、恐らく破棄の方向で進むだろう、期待はするな」

「了解」

 クソッ。やっぱりか、中国本国があちらにつくとは、日中戦争がまた始まろうというのか。

 艦橋へ急ぐ。

「副長!戦況は!!」

「大破艦1、被弾艦3、かがが炎上中、鎮守府も炎上中。敵編隊は、撤退していきました」

 かががまだ燃えてる。鎮守府も燃えている。絶望的だ。

「了解!無損傷艦はただちに補給作業に入り、再度出撃の準備を!損傷艦は、海上で応急修理を行い、引き続き対空警戒!補給が終わり次第、入れ替わる!」

 むらさめ、ゆうだちの無損傷二艦はタグボートに押され、接岸する。そして急ピッチで弾薬の補給が行われた。

 かがの火災も収まったようだ。

 ひりゅうには艦載機を急いで載せて、出航させた。

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