第一章「世界はビターなコーヒーのよう」
第一章 第一話
レイテの勝利から二日後。我々は、作戦を共にした佐世保・岩国艦隊と別れ、もうまもなく呉に到着する。
作戦成功の報を、海上自衛隊総司令部に告げると、よくやった。とお褒めの言葉をいただいた。そして、政府から全国民、全世界へ日本の勝利報告がなされた。これで、日本統一をすることが出来た。
米軍からは、戦闘での修復のための修理ドッグを貸し出すとのありがたい通達をもらった。正直、この戦いで被弾した艦は少ないが、呉だけで修理するより、はるかに早く済む。米軍が対帝国用に大阪の南港に建設した軍港へ被弾艦は四国と九州の間の豊後水道突入前
に艦隊と別れ、大阪へ向かう。
俺のむらさめは、旗艦として、責務を全うし、見事被弾箇所なし。護衛空母かが・ひりゅうも同様だ。
そして、俺は呉についたらとある事をする。もう十年近く計画していた事を遂に実行する。
勝利に浮かれるなって?いいじゃないか、今日くらいは。
出雲和桜。防衛大学校の入学式で、桜の下で凛として立っていた彼女。何をするわけでもなく、桜を眺めていた彼女は、俺に気づき、ニコッと微笑んだ。そして、俺は人生で初めて恋心というものを知った。彼女の徹甲弾で俺の心はなすすべもなく撃ち抜かれた。
そして、一方通行の恋航路をとってきた俺は、今夜、彼女へと舵を切る。彼女が俺をどう思っているのかは、分からない。でも、俺は、男としてやらねばならない。
グッと拳を握った。
呉の街が見えてきた。帰ってきた。俺たちが守った港だ。
街を眺めると、日本国旗を振っている国民が沢山いた。
それに対して、俺は艦員にデッキに出て答えるように命令する。特に若い者は勢いよくデッキに出て、誇らしげに手を振り返す。自分もそうしたいのは山々だが、艦長という立場上、艦橋を離れるわけにもいかないので、窓ガラス越しに敬礼をする。
タグボートのロープが結ばれ、むらさめは呉に接岸する。
「全艦員に告ぐ!これより、離艦する。職務を終えたものから、離艦せよ。その後、各宿舎へ戻り、ゆっくり休んでほしい!その後については、又指示を出す!ご苦労であった!そして、ありがとう!」
艦橋にいたみんなが、俺に敬礼をする。そして、俺も笑顔で敬礼を返す。
そして、艦員全員の離艦を確認して、俺は船を後にした。
「はぁ~!」
地面に足をつけたその瞬間、初めて緊張が一気に抜けた。
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