第六話

「全艦、全船員に通達!これより、レイテ本土奇襲に移る。気を引き締めろ、勝利を我らの手に!暁の水平線に勝利を!作戦開始!」

 かが・ひりゅう・はくほうから、銀の翼をはためかせ、艦載機が勢いよく飛び出す。

「かがより入電“全機発艦完了”」

 かがから他の機より遥かにスムーズに飛び出した、最後のSW-20。尾翼に黄色のラインが入っているのが特徴の、出雲専用機。わざわざ、かがの前を航行するむらさめの艦橋近くを、速度を落として通過していく。親指を立てて、こちらを向く。まったく余裕なやつだ。

 はくほうから飛び出した尾翼に青いラインのあるSW-20。土佐専用機だ。彼も負けじと、黄色のラインを追う。

 二人は最高の好敵手である。何故二人はああ言いながらも好敵手なのか。それはお互いの腕を認めているからである。互いを尊敬しあい、その腕を妬み。負けじと努力してきた結果である。

「いってこい。貴官の無事を祈る」

 俺はそう言って、静かに敬礼した。


「土佐三佐から入電。“奇襲ニ成功セリ”繰り返す“奇襲ニ成功セリ コレヨリ帰投スル”」

 さすが、期待通りの腕前だ。物資の件も考えすぎだったかな。思わず少し慢心してしまう。

「よし!航空隊に続け!!!第四戦速ヨーソロー目標レイテ島帝国艦隊!」

 むらさめの艦員が一同蜂起する。気を引き締める。


同日 ヒトハチマルマル レイテ湾レイテ島沖

 いよいよ、敵の艦隊が射程位置に入る。そして、20.3cm単装砲が火を噴く。20.3cm単装砲は、第二次世界大戦中の20.3cm連装砲がベースになったもので、対帝国戦に備え米軍と共同で開発した護衛艦の主砲である。20.3㎝とは射程も1.5倍ほどに延び、回頭速度も倍以上になっている。

「艦長!射程圏内です!」

 砲術長の岩波咲太が勢いよく告げる。

「よし!全艦に通達!これより、砲撃に転ずる!妥協はするな!敵の火薬庫に一発お見舞いしてやれ!攻撃開始!!!」

 さてと、むらさめも攻撃に移ろう

「目標、敵艦隊妙高。うち~かたはじめ!」

「誤差修正完了うち~かたはじめ!」

 勢いよく20.3㎝単装砲から飛び出してゆく。敵艦隊の先頭にいる重巡洋艦妙高を狙う。妙高も、とても良い船だった。ここで戦うのがたまらなく悔しい。終戦まもなく、帝国側への警戒に当てている時間がなかったため、シンガポールまで情報を伝えることが出来ず、帝国側に重巡洋艦高雄と共に強奪された。

 今回敵の艦隊には、戦艦伊勢・日向をはじめとして、妙高、高雄、利根、大淀、夕雲、冬月、夏月、花月。そして、幸運艦雪風。雪風は、俺のひいおじいちゃんが乗っていた船だ。それはもう、数々の戦を乗り切り、世界からも認められた駆逐艦である。そんな俺にとっても、日本にとっても思い出の船を自分の手で沈めてしまうというのは、なんとも気が引けるものである。

「妙高への全弾命中を確認。次、対艦ミサイルうちかたはじめ!」

 むらさめ後方に積んでいる、対艦ミサイルが勢いよく妙高へと飛んで行く。

「敵からの砲撃を確認!面舵いっぱい!!」

 副長の素早い指示が飛ぶ。それにこたえるように今井航海長が舵を切る。

 海へ伊勢の砲弾が落ちる。むらさめが大きく揺れる。

「味方艦に着弾なし!」

「了解!第二射うち~かたはじめ!」

 俺の号令で第二射が放たれる。

「対艦ミサイル命中!妙高大破炎上中!!」

 先行する伊号潜水艦から、入電が入る。

 この第二射で妙高を沈めることが出来る。安らかに眠ってくれ。海の戦士よ。

「伊456より入電!妙高の轟沈を確認!」

「よし、続いて、高雄への射撃をはじめる!うち~かたはじめ!」

 高雄。またまた手ごわい船だ。果たして、あの装甲を破れるものか……少し心配ではある。

「呂209より入電!冬月・夏月の轟沈を確認!」

 味方艦も頑張ってくれているようだ。きりしま・すずつき・あきしもを筆頭に集中的に一艦ずつ叩いている。

「かすがより入電!“本土攻撃ノタメ先行ス”」

 後方にいた、かすが・しののめが艦隊の前へと出る。二艦は本土攻撃用に、ミサイルを積んでいる特別な護衛艦である。果たして、護衛艦と呼べる範疇にいるのかは怪しいが……

「了解!他艦は、引き続き艦隊への攻撃を続けよ!!」

 敵の飛行場から、戦闘機が出てくるのが目視でも確認できた。

 そして、第一次攻撃隊の収容を終わった三空母が、迎撃のための戦闘機を発艦させる。

「敵艦より砲撃!!」

 今度は、さらに接近したため、伊勢・日向のみならず、利根・高雄・大淀も砲撃をしてきた。

 先ほどより大きな波が立つ。

「被害状況は!!」

 瞬時に、山道副長へ問う。

「きりしまに一発命中。主砲が炎上中です」

 さすがの観察力といったところだ、艦橋から艦隊を素早くみまわし、被害状況を整理する。彼の評価される素晴らしいところである。

「きりしまに、後方のべんてんと変わるように指示を。本艦もこれより、本土攻撃へと移行する。主砲を徹甲弾から、三式弾へと交換せよ!」

 本土攻撃には、徹甲弾よりも、攻撃範囲の広い三式弾の方が有効である。三式弾といえど、大戦中のものより、はるかに性能もUPしたモノだ。正式名称は三式弾頭改三。

「艦長!三式弾の装填完了しました!いつでもいけます!」

 岩波砲術超が報告する。

「主砲斉射用意!うち~かたはじめ!」

 前方の単装砲だけでなく、後方につまれた単装砲も火を噴く。

 陸地の上でけたたましい轟音を響かせ三式弾が炸裂する。かすが・しののめのミサイルもそこに重なるように本土へ弾着する。

 レイテが燃えている。まるで地獄のように。

「伊456より入電。本土、敵飛行場炎上中。滑走路使用不可!」

 よしきた!これで、航空機の猛威は今、味方戦闘機と交戦しているものだけになる。

「了解!!引き続き攻撃せよ!手を緩めるな!うち~かたはじめ!!」

 各艦から一方的に砲撃が加えられる。

「伊456から入電。敵艦隊壊滅!全艦の轟沈を確認」

 これで、もう、心配はいらない。あとは本土を撃ちまくるのみ。再興不可にまで徹底的に。

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