イカサマ麻雀闇属性 後編
※以下、前篇に続きイカサマ麻雀のお話ですが、麻雀を知らない人には割とチンプンカンプンかもしれないですし、麻雀を知ってる人からすればツッコミどころ満載ですがご了承ください。
始まったイカサマ麻雀は初っ端からエンジン全開だった。
まず高橋、お前の手牌はなぜそんなに多いのだ。
山本、足元に散らばってるその牌の山はなんだ。さすがに直に捨てるのはどうかと思うぞ。
そして佐藤。お前が一番ヤバいぞ。さっきからマジックペンで何してやがる。それ「白」だろ? 何も書かれてないのをいいことに、まさか勝手に書き足したりしてないだろうな? 僕の所有物だぞ? おい、赤マジックを出すな、「中」を書くな。
一応、通常の麻雀と同様に、順番に牌を取っていくという流れは辛うじて機能しているものの、もはやその流れすら意に介さなくなりそうなほど、各自自分の役を作ることに必死だった。
かくいう僕もさっきから、机の中に隠していた自分の予備の麻雀セットから牌を抜き出して、せこせこと役を揃えていた。机の中は暗くて良く見えないのでとにかくでたらめに牌を引っこ抜いてはいるのだが、なかなかどうして目的の牌にたどり着かない。
当然要らない牌は場に流れていくことになるのだが、これが山本が牌をポンポン足元に投げ捨てても牌が不足しない理由だ。素晴らしい需要と供給。どうやら神の見えざる手はこんなところでも働いているらしい。
そんなこんなで、対局も中盤に差し掛かる。もはやイカサマに対する罪悪感などは微塵も感じられず、麻雀牌を使って「麻雀ではない別の何か」に興じる我々であったが、その甲斐あって僕の手牌もなかなか良くなってきた。
うーん……この局面でこの手牌だと、狙うは字一色(文字ばっかり。漢字の書き取りみたいなやつ)かあるいは大四喜(東西南北ばっか。地図みたいなやつ)か、はたまた大三元(パッと見イタリア)といったところか。他の奴らも役が揃ってきてるであろうことを考慮すると、大三元が一番手っ取り早くアガれそうだ。
僕がそう目標を定めたその時、対面の山本が叫んだ。
「ツモ! くらえロイヤルストレートフラッシュ!」
山本の手の中には1~5の筒子。高々と掲げた右手が眩しい。……いやこれそういうゲームじゃねーから。悔しがるなよ、佐藤。
「くっくっく……山本、甘いぜ」
「何ッ⁉」
次に喚きだしたのは高橋。
「秘技ッ! ピラミッド‼」
高橋の前には、高々と積まれた麻雀牌。美しい三角形を形作り、エジプティング王家パワーで山本を圧倒している。……なるほど、道理でお前の手牌が多くなってたわけだよ。
もはやこれまでか、またも高橋に勝ちを奪われてしまうのかと誰もが思ったその時、佐藤が不敵に笑った。……ま、まさかこの状況を覆せるとでもいうのか……⁉
佐藤の手には一枚の牌。先ほどからマジックペンと共に握ってたやつだから恐らく「白」だろう。
佐藤は不敵な笑みを浮かべたまま、その一枚をこっちに向けた。
「……ミッ〇ーマウス‼」
白一色だった牌に描かれていたのは、世界的なネズミのキャラクター。ハハッと笑う佐藤。静まり返る教室。僕の脳内で流れるはエレクトリ〇ルパレード。脳裏に浮かぶはこの麻雀牌を購入した日。樋口さん一人分を示す値札。……役満だ。
「……もう佐藤、お前の勝ちでいいよ」
僕のギブアップに続き、山本、高橋も白旗を上げ、かくして第一回イカサマ麻雀大会闇ゲーム部門は幕を閉じたのだった。
結局、一つも役が出来ていなかったという理由で僕が教室を片付けることになり、僕はしぶしぶ机と椅子を元に戻していた。先にいつものマック行ってるわ~という薄情なあいつらに置いてけぼりをくらい、僕は一人寂しく使い物にならなくなった牌を眺めていた。……佐藤め、絶対許さん。
気づけば、完全下校時刻はもうすぐにまで迫っており、いつの間にかグラウンドからの運動部の鳴き声は聞こえなくなっていた。
太陽が山の向こうに沈んでいってしまったせいでもあろう。
さっき感じたほどグラウンドは眩しくなくて。
教室の蛍光灯の方がよっぽどキラキラしていて。
名残惜しくて、僕はしばらくその場を動けなかった。
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