イカサマ麻雀闇属性

イカサマ麻雀闇属性 前編

 僕に対するコパン君という呼称は、いつの間にかグローバルスタンダードとなっていた。同じクラスの人は勿論、他クラスの顔を合わせたこともないような人からもそう呼ばれる始末だ。なんなら僕の本名知らないだけでしょ、君ら。


 それでも、放課後たまに集まる陰キャ仲間たちだけは、今までちゃんと苗字で呼んでくれていたのに。

「コパン、それポン」

 今じゃもうこの有様だ。まあ、別にいいんだけどさ。


 そして、このあだ名が広まる元凶となった陽キャ君は今日も今日とて部活に勤しんでいるらしい。夕日の差し込む放課後の教室の窓からは、グラウンドで汗を流す青春強者たちの姿が見て取れる。対して僕らは教室に陣取って麻雀大会。それももちろん楽しいし、彼らが羨ましいのかと問われれば、それはそうではないような気もする。


 ただ、なんとなく。

 なんとなく眩しくって、思わずカーテンを閉めたくなった。



 どうやら陽キャ君はこの間融合召喚したミルクティーの話や、僕が子供の頃に作った熟成イチゴオレの話を面白がって吹聴したらしく、学校内での奇人・コパン君の知名度はうなぎ登りとなっていた。

「てかそもそもコパンの由来って何だよ」

 机を繋げて作った即席の雀卓を囲む陰キャ仲間の一人、山本が唐突に問うてきた。僕がこの間陽キャ君にしたのと全く同じ質問だ。


「あれだってよ、ひと昔前のお菓子。あったろ? ちっちゃくたっていちにんまえ~♪ って。あのキャラに見た目が似てるからだって。あ、それチー」

「なんだよ、まんまじゃん。つーか、そんなに似てるか?」

 そう言って、山本はスマホを取り出す。

「あー、まあ、言われれば確かに、って感じかな」

 山本のスマホを覗き込んでいた佐藤が眉間にしわを寄せつつ、そう言った。


「どっちかっていうとマスオさんっぽいけどな、お前」

 山本の隣の高橋がロンと言いつつそうぼやいた。まあ陽キャ君もあれはあれでどっか感性バグってるしな。

「リーチイーペイドラドラで、山本トンだな。うし! 今日は終わっか!」

「おいおい高橋勝ち逃げかよ~そりゃないぜ~、な、コパンもそう思うだろ?」

 もはや本名のように浸透圧を持つ「コパン」。もうあだ名としてはいちにんまえだな。

「まあ、確かに、このまま終わるのも味気ないかな。最後の役も大した役じゃなかったし」

「おいおい負け惜しみが酷いぞコパン。今日は俺の勝ち。以上!」

「んじゃ、『麻雀』は止めようか。麻雀は、お前の勝ちでいいよ」

「ん? なんだよ、麻雀は、って」

「『イカサマ麻雀』やろうぜ」


 ずっとやりたかったんだよな、イカサマ麻雀。

 イカサマ麻雀とは読んで字のごとく、イカサマ有の麻雀だ。それ以上でもそれ以下でもない。例えば、隙を見て欲しい牌の位置を盗み見たり、相手の牌を奪ったり。ルールが無いのが唯一のルールである闇のゲームなのだ。


「イカサマの範囲は勿論無制限。賭けるのは命とプライド! もちろんやるよな⁉」

 ゲームマスターコパンの提案に、件の高橋は……。

「いいだろう! 闇のデュエルの始まりだ‼」

 ノリノリだった。山本、佐藤にも異論は無いようだ。うん。楽しいことは楽しいのだ。こんな放課後だって。そりゃキラキラはしてないけどさ。

 ……それでもいいじゃん。

『デュエルスタンバイ‼』

 四人の声は放課後の教室に響き渡った。


 それが運動部の掛け声や吹奏楽部の奏でる音色に負けないほど眩しく輝かしいものであると。


 陰キャ四人組が知るのはまだ先の話だ。

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