第7話 素晴らしい朝

俺は笑っていた。

過去に友人として過ごしていた奴の死を。

悔やむことも、悲しむことも、喪失感のようなものもなにもない。むしろどこか快楽にも似た感情が押し寄せてきて、ただただそのニュースが頭の中を駆け巡って2人の死をいつまでも強調していた。


「あれ?この子たちってあなたの…」

「…知らねーな、こんな奴ら」

「え、でも、確かこんな名前じゃなかったかしら?あのときの子たち」

「世の中には似た名前の奴なんてごまんといんだろ?てか、あんな奴ら顔も忘れた」


手に持っていたスマホを食卓に置き、持っていた買い物袋を開ける。

中はもうえらいことになっていた。


「あーぁ。…仕方ないよな」


この漏れた言葉が惣菜に対するものなのか、あるいは別の何かに対するものなのか。

2人のことを憎んでいたのはわかっていた。だが、それを今まで言葉にすることはなかった。

自分自身でも明確に解説は出来ないが、最近ではあり得ないほどの清々しさがあった。


この結末がよかったのかは甚だ疑問が生まれるところだ。

しかしながら思うことがあった。


「俺は最低な人間だ」


それだけは紛れもない事実だと実感した。


ーーーーーーーー。


翌朝

不思議と早い時間に目が覚めた。今日のシフトは夜からなのでだいぶ損をした気分。

もう少し寝ようかと思うがどうしても寝付けない。

仕方ないとリビングに降りていきテレビをつける。日曜の朝ともなるとなにもやっていない。


「暇だ。気晴らしに外に出るか」


なんだかすごく久しぶりな感じがする。

朝の光を浴びるなんてここ数年味わってなかった。大学を辞めてからは、昼夜逆転の生活になりつつあって、基本的にシフトは夕方以降。昼過ぎまで寝てるのが最近のスタイルだった。


「街でもブラついてみるか」


まだ8時にもならない時間のせいもあってほとんどの店は閉まっている。

街の商店街はまだ人通りまばらだが夜見る光景とはまた一味違った。

バイト帰りには気にも止めないようなものばかりが目に留まる。

年季の入った雑貨屋、看板の文字が一文字抜けた靴屋、ショーケースに飾られたカメラ。

何故だか妙なワクワク感がある。早起きは三文の徳というがまさにこれのことだろう。

普通の生活をしている人間からすれば何気ない風景でしかないだろうが、今日の俺には全てが燦然として見えた。


しばらく歩いていくと公園に出た。

そうだ、西条さんを初めて見かけた公園。


「そういやメモもらったっけ。確かポケットにしまったような…」


右ポケットにしまった記憶はあった。なんせ壁に掛けてあったのをそのまま着てきたのが幸いか否かは別として昨日着ていたものだった。


「あった。NINEのIDとか言ってたけど本人のかな…?」


とても不安になる。が、登録してみた。


『ID登録で西条結愛さんとお友達になりました。』


一先ず第一段階はクリア。第二段階へシフトする。


『おはようございます。東山です。あの後大丈夫でしたか?』


んー。当たり障りのない文面。正直女子にNINEなんて久しぶりすぎてなんて送るかわからん。

そう頭でボヤキながら少し震える指で送信ボタンを押す。


既読


「早ッ!?」


思わず声に出た。こんな時間に送ったNINEを秒で既読するとは思ってもいなかった。

予想外の反応にドキドキしている俺。そんなことはお構い無しに来る返信。


『おはようございます!NINEずっと待ってました。こんな早い時間は予定してなかったですけど』

待ってました…なぜだろう。妙な胸の高鳴り。社交辞令程度の連絡先交換だろうと思っていても意識してしまう男のさが


『なんかすいません。朝ムダに目が覚めて…』

待て待て。ムダに目が覚めてなんてついで感出すのはよくないよな。


『なんかすいません。朝すごくスッキリ目が覚めたら西条さんのこと思い出したので』


どうだろう?別に駆け引きとかいうつもりはないが自然な感じがあるだろうか?

だが、割りと考えて出した返信に


『あ、そうなんですね。朝の目覚め次第で今日1日変わる気がしますよね』


んー、当たり障りない。あんだけの美人だ。

男に言い寄られたときの対処くらい慣れたもんだろう。

変な期待したって仕方ない平常心でいこう。


『西条さんも早起きなんですね。日曜なのに』

『いつもこれくらいです!朝の光って好きなんです。今日も頑張ろう!って気持ちになるから』

『前向きですね。でも、今それ散歩しながら思いました。久しくない感覚で新鮮だったな』

『そうですよね!すごく気持ちいいですよね!新たな発見の共有です!』

とNINE越しに笑みを浮かべてそうな返信に思ったことがある。

高嶺の花感からは想像してたものとはまた違った親しみ易さ。

意外にも文面からは容姿にそぐわない拙さが垣間見えてちょっと徳をした気分。


『なんか会った印象とは違ってまた新たな発見!』

『私どんな印象でした?』

『んー、クールで他人ひと寄せ付けない感じの美人?』

さりげなく美人なんて送ってしまったせいか短いスパンで来ていたNINEが少し止まった。


『ありがとうございます』

少し素っ気なさを感じる返信からすぐに

『ところで今どこら辺散歩中なんですか?私も今外なんです!』

『商店街近くの公園でまったりしてます』


すると突然NINE電話が鳴った。

画面には『西条結愛』の文字。

いきなりの電話に心中穏やかではないがポーカーフェイスで電話に出る。


「もしもし?どうかしました?」

「突然ごめんなさい!でも、そこから動かないでくださいね!」


スマホの奥から聞こえる小刻みに揺れる息遣いと物が擦れる音。

走ってるのだろうか。でも、なぜ走りながら通話なんかしているのか不思議に思っていると


「「東山さん!見つけた!」」


スマホからそして遠くから同時に声が聞こえた。

突然目の前に現れた天使に言葉を失ったがすぐ理解した。

外にいると言っていた。偶然近くにいた。それを知って走って来た。



「いや、もう…これなんてラブコメ?」



胸踊らせる展開に浸っていた。











  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る