第3話 裏切りと転落

2人の所属するサークルはA棟の反対側にあるB棟の4階。A棟とB棟の間には学生たちの集いの広場があり、昼休みはよく賑わっている。その広場を突っ切って行く。

と広場から少し外れた位置にあるベンチに2人の姿が見えた。


「アイツら…」


自分の中に現れた確信とも思える疑心。

だがしかし、助けられたことに対しての思いがまだ拭えず信じたいと願いを込めて2人に声をかけた。


「聞きたいことがあるんだが、いいか?」


俺を見て少しばかり驚いた様子だったが、瞬間にお互い目を合わせ口元が緩んだ。


「なんだよ?急に。なんかあったか?」

「…ヨシハル、今朝はありがとう。けど、確認したいことがあってな。」

「なに?」

「今朝の電車は1人だったか?」

「あぁ、そうだけど?」

「ヨウイチはあの電車に乗ってたか?」

「…乗ってねぇけど?」

「…じゃ、コレ、なんだかわかるか?」


と動画を見せた。


「なにコレ?コレ一輝か?え、なに痴漢?」

と鼻で笑った。

「今日大学内にこんな動画が拡散してた。これは今朝通学中の電車で起きた壮大な勘違いだ。あのときこの場にいたのは当事者とヨシハルだけなんだが…」

「だから?俺関係なくね?」

「確かにこのときヨウイチはいなかった。でも、この動画撮ったのお前だろ?アカウントお前のじゃねーのかよ!?」


声を荒げてしまった。


「は?俺が撮った証拠あんのかよ?アカウントだって偽アカかもしんねーぞ?」

「それよか、よっさんなんてそこら辺にいっぱいいんだろ!なぁ、よっさん(ヨシハル)」

「お前…っ。適当なことばっか言ってんじゃ…」


あまりに必死な言葉に辛抱堪らんとばかりにヨシハルが笑いだした。


「あはははは!ムリムリ!ギブ!ヨウイチお前下手すぎ!」

「ぶはっ!ヨシハルお前笑うなよ!?仕方ねーだろ!コイツがあまりに必死だから思わずニヤけちったよ」

「お前ら…」

「ドッキリ大成功ー!!学園のカリスマの実態!?熟女を狙う連続痴漢魔!」

「完璧な見出しだな!一輝、お前ちょっと器用だからってあんま調子乗られるとなぁ。まぁ、痴漢のレッテル貼られたまま大学生活謳歌しろよ」

「あ!ちなみにあのババアのケツ触ったのよっさんです!どっちのよっさんかは秘密だよ!あははは!」

「…ふざけんなよお前らっ!!こんなことされる理由ねぇだろ!?」

「理由?お前にはわかんねーだろうよ。お前みたいな有能君にはよ」

「は?それどういう意味だよ」

「ちっ…」

「ふざけんなよ!お前ら!ちゃんと説明したらどうなんだよ!!」


その怒りの声に周りがざわついている。

こんな大声を出したのは久しぶりだった。冷静になれと自分に言い聞かせて


「なんでこんな…」


そのとき中庭に響く校内放送。


『東山一輝。至急B棟生徒会議室まで来るように。繰り返す…』


突然の呼び出しに言葉が詰まった。が、今日の今日だ。すぐに予想がついた。

2人は苛立ちと嘲笑したまま早く行けとばかりに手で追い払う素振りをみせた。

周りの生徒たちも見ているし、怒りは収まらないがその場を離れた。


「失礼します…」

「東山、そこに座れ。聞きたいことがある」

先ほどとは立場が逆転。聞かれる側にまわった。

「なんですか?」

「コレなんだが、説明してもらえるか?」


当然のように差し出されたSNS動画。


「お前の内定先からも連絡があった。コレは本当に彼なのか?確認してほしいと」

「な、なんで内定先まで!?」

「それは知らないがSNSに上がってしまった以上見ている者がいるということだ」

「で、コレはお前か?」

「…俺です。でも、誤解だってわかってもらいました!駅員に聞いたらわかることですよ!俺ははめられたんです!とも、知り合いに…」

「証拠は?」

「だから駅員に聞けばわかるって…」

「確かに確認すれば真実はわかるだろう。だが、先方からは『コレが本人であろうとなかろうと疑惑が生まれるような生徒はうちには必要ありません』と仰ってる」

「え…う、嘘ですよね!?俺なにもしてないのに!?」

「仕方ないだろう。仮にお前じゃないとしてもこういう話に出て来てしまった以上。疑いが晴れたところでそういう目で見られることに変わりない」


呆然とした。

冤罪をさらに加工されたもののせいで内定そのものがなくなるなんて思いもしなかった。


その後も必死の訴えは空を切る形となり、他に何も言えず軽く頷いて席を立ち会議室を後にした。


(なんで俺が…。なんでなんで…。)

頭が真っ白になりフラフラと歩いていると2人が見えた。

そのとき心の奥底から湧き出る感情を俺は抑えることができなかった。


「おい、大丈夫か?顔色悪いぞ?」


ニタニタと笑いながら声をかけてきたヨウイチ。

俺の中で何かが弾ける音がした。


ヨウイチの顔面に強く、そして重くまるで鈍器で殴ったような鈍い衝撃が走った。

それを見て呆気にとられるヨシハル。


その場に倒れこんだヨウイチに馬乗りなり無我夢中で拳を振り下ろしていた。


「許さねぇ!お前ら絶対に許さねぇ…!!」


止めに入るヨシハルにも綺麗な一発を入れ黙らせる。周りの悲鳴や騒然とした空気。だが、自分の周辺の空気だけはまるで穏やかで音がなかった。数十発と振り下ろされる拳はヒリヒリと痛み熱を帯びているが今は気にならない。それもそのはず、制止が入るまで自分の理性などとうに失っていたのだ。


それからのことは言うまでもない。親とともに会議室に呼び出された。動画のこともあり学内での暴行事件と処理され、促されるように退学。ヨシハルは軽症、ヨウイチは全治2週間の怪我をしたそうだ。そうだというのも2人の家に親とともに謝罪に行ったが、双方とも当事者が不在だった。向こうにも引け目があるのかただ会いたくなかったのかは知らないが2人に会うことなく示談で話が済んだ。

最後の日、周りの目は酷く冷たく今まで築いてきたものは音をたてて崩れ去った。

誰も俺を信じる者などいない。全てが敵となった今俺には何も残らなかった。


こうして俺のキャンパスライフは幕を閉じた。


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