第4話 出会い

いなくなった老婆。まるで夢でも見ていたのかと錯覚した。確かに会話をしていたはず。でも、そこには何もない薄暗い路地だけ。


「あ、あれ?婆さんどこ行った?幻覚?」

路地を探すが何もない。頭を掻きながら首をかしげる。


「俺疲れてんのかな」


自分さえ疑いだしたが、そんなことよりもアイツらと会ったことで嫌な過去を思い出した。怒りが湧いてくるがもう終わったこと。気を引き締めてバイトに向かった。


ーーーー。


いつも通り淡々とバイトを終え帰路についていた。

いつも通るはずの細い裏道に違和感を感じながら。


「なんか気持ち悪いな、さっさと帰るか」


その瞬間。ボフッと愛車が鳴いた。


「おい、マジか?」


エンジンがかからない。セルでもキックでもどうしてもかからない。ガソリンもほぼ満タンなのにかからない。突然の故障。

この違和感が原因なら鳥肌が立ってくるがそんなことは考えないようにしたい。

まだ22時すぎだ。怪奇なものよりもどちらかと言えばウェーイなノリのが活発だろう。


「はぁ…押すか」


いつも通りすぎるだけだからマジマジと見たことなかったが、意外にも閑静な街だ。

公園なんかも気にしたことなかった。こうして歩いてみて思うこともあるんだなとボーッと園内を眺めているとそこに一人の女性がいた。


公園の街灯に照らされて佇む姿は息を飲むほど綺麗だった。

しなやかに伸びた黒い髪に目鼻立ちの整った顔、ワンピースから覗くスッと伸びた足

まさに『美人』


「…うわ、超美人」


あまりの綺麗さにガン見していることさえ忘れてしまった。

ハッと我に還ったとき女性と目が合っているのに気づいた。

(やべぇ…見てたのバレた)


『何ですか?気持ち悪い。警察呼びますよ!?』


な展開は避けたい。知らん顔で通りすぎるが吉だ。

(よし、俺は見てない俺は見てない、行こう)


「あの…」


苦い記憶が甦ってくる。

(ダ、ダメダダメダメ。振り向いたらさっきより振り向いたこと後悔するぞ一輝!!)


スタスタと早歩きをしてその場から立ち去る俺。


「え、ちょっと。あ、あの!」


振り返ることもせず片手を挙げて


「いや、ごめんなさい。急いでるので」

「待って…あ、ねぇ!」


つまづいてよろける女性。本当ならすぐにでも手をのばしたいが


「あーもう、ホントすいません!」

「…たのに」


(え…)

ペタンと女の子座りになった彼女からうっすらと聞こえた言葉に酷く心が動揺していたが勘違い。聞き間違えだと原付を必死に押し込む。


「…もういいです」


手で膝の砂をはたき、うつむきながら彼女が言った言葉に安堵とともにとても残念な気持ちにさせたが黙っておく。

だか、そう簡単にはいかなかった。



『逃げないで。そこで止まりなさい』


ーーーードクンッ


(…!?)

彼女の一言で突然心臓を鷲掴みにされたような緊張感が走った。

次の瞬間

(ーーーッ!え、動かない!?)

俺の意思に反して体が硬直した。力が入らないわけではないが足が地面にくっついたみたいだった。

コツコツと後ろから近づいてくる音。徐々に近づいてくる音は横を過ぎて俺の行き先を阻むように彼女が立った。


「なぜ逃げるんですか…?」

「いや、えっと…」

「それより俺に何した!?…んですか…?」

「こっちが質問してるんです」

「…」

「聞いてますか?」

「…だったから。」

「?」

首をかしげる彼女。


「す、すげぇ綺麗だったから見とれちゃって…見てるのバレたかと思ってつい…」


ーーーー/////!!


「ななななんですか急に!?」


頬を赤らめ動揺してるのが見てわかった。


「過去に苦い経験があるもんで…そのなんというか怒られるかなと」

「わ、私が怒ると思って逃げたんですか!?怒りませんよ!…私そんなキツそうに見えますか…?」

「いや、見えないですけど、突然知らない人にガン見されたら引くでしょ…?」

「確かに冷静に考えて知らない人ならちょっと嫌で…一…」ハッ!


どうしたのだろう。突然かみ殺したように途切れた。

さっきからなんか様子がおかしい。


「あ、あのさっき「待ってた」って言いました…?」

「…。聞き間違いではないですか?」


ジッと見ていたがそう言うと少し不機嫌そうにそっぽを向いた。

やっぱりな。

こんな美人に待たれる道理がない。危うくただの勘違いからただの痴漢の勘違いにランクアップするとこだった。いや、痴漢はしていない。

待たれてもいない、怒られることもないならここにいる意味もないだろう。


「それじゃ用がないなら…」


と、そそくさと逃げようとしている俺。だがしかし、体が言うことを聞かない。そんな俺に間髪入れずに


「あります!」


そういい放つと少しの間をおいて




「異能力って信じますか?」






………………………………は?



「え…ちょっとごめんなさい。なんですって?い、異能力?」

「はい」

「えっと、もしかしてそっち系でした?ごめんなさい。俺そういうのちょっと興味ないので。勧誘とかホント…すいません!」


(美人使った変な宗教の勧誘かよ。ホント危うく釣られるとこだった。帰ろ帰ろ)


「ち、違います!変な宗教とかじゃないです!釣りじゃないです!帰らないでください!」


(読心術かよこえーよ。そもそも 釣りじゃないです!って発言がこえーよ。)

引いているのが顔に出ていたのかとても重たい空気に包まれていた。


「な、なんですか。その怪しい人を見るような目は!?本当に違うんです!」


必死に誤解を解こうとする姿を見ていたらフッと笑みがこぼれた。


「もう!…でも、よかった」


そう言うと彼女は寂しそうな顔で笑みを浮かべた。

動かない体の奥底で何か引っかかるがわからない。


「あなたにとってとてもとても大事な日が来ます」

「…だから、あなたには思い出してほしいんです。全て…」


そう言うと一瞬にして彼女表情がゴミを見るような冷たいものに変わった。



『あの日の記憶を思い出しなさい』



その一言に周りの景色が歪み、意識が朦朧としていくのがわかった…。





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