第2話 挫折(回想)
子どもの頃から何をやってもそつなくこなせた。勉強にスポーツ、コミュニケーション能力も十分に持ち合わせていた。
『一輝君!今回もクラストップだったわよ!すごいわねぇ!』
『くそーっ!また負けた!一輝君にかけっこで勝ったことないよ』
『一輝!ちょっとここわかんねぇんだけど教えてくれ!えーっと因数分解?』
『マジかよ一輝!高校内定一番乗りかよ!はぁ、俺受験したくねぇよ』
『東山君すごい!サッカー部エースとまともにやり合ってるよ!』
『お前ほんとすげぇな!なんでもできんじゃねぇの?』
『さすがだな、一輝』
言われ続けてきた。何をやっても難しいと感じることがなかった。それ故の慢心。自分はなんでもできる。他の奴等とは違う。周りがモブキャラにしか見えなかった。
「一輝君もう内定もらったの?めっちゃ早いね!うらやましい」
当時の俺は自宅から電車に乗って30分ほどの大学に進学。生活は大きく変わることなく、就職の内定ももらって順風満帆なキャンパスライフを送っていた。
だが、大学三年のある日事件が起きた。
いつものように自宅を出て電車に乗り込む。
「なんか今日やたら混んでんな…」
いつもよりも詰められた箱形の乗り物にグッと体を忍び込ませる。周りの目は冷たいものばかりだが折れたら講義に間に合わない。
揺られながら3、4駅すぎて目的地の駅へ向かっていたとき
「ちょっとあなた!?」
とてつもない声が車内に響いた。
その声の主は俺の真後ろにいた50代くらいのおば…もといお姉さんだった。
でも、なぜだろうか。そう放った視線が向けられているのが『俺』
すかさず腕を捕まれた。
「…え?」
すっとんきょうな声が出てしまった。
「え?え?なんですか!?」
「なんですかじゃないわよ!あなた今私のお尻触ったでしょ!?」
「………はぁぁぁぁ!?触ってないですよ!?」
「嘘おっしゃい!確かに触られたわ!後ろにいたのあなたでしょ!?」
「いやいや、俺こっち向いてたし!」
と指差す。そんなことお構い無しとばかりに
「う、後ろ向きだろうと触れるでしょ!?」
「触ってないから!なんで俺があんたみたいなおば…」
「な、なんですってぇ!?」
まだ言い終えてもいないのに怒り出した。
周りが手に負えなくなるほど激情したお姉さん。
そのとき
「次の駅で降りましょう!」
そう言ってきたのはヨシハルだった。
突然の登場に言葉を失ったが知り合いが現れたことによって少し安堵した。
お姉さんをなだめるヨシハル。駅に着き降りる。駅員も登場して、事の大きさに気付き困惑しているが無実なものは無実。
「えーっと痴漢されたということで?」
「はい!この子に!」
「俺は痴漢なんてしてないですよ。そもそも何の需要があってこんな…」
「まぁまぁ。って、駅員さん!コイツなんもしてないですよ!俺声かけようかと見てたけどずっとスマホいじってたし。痴漢なんてしてませんでしたよ」
ヨシハル…。
「多分カバンかなんか当たったの勘違いしたんじゃないですか?」
「と言ってますけどどうでしょう?」
「…」
黙るお姉さん。
「あ、あらそうなの。でも、見てた人がいたならいいわ!勘違いだったのかしら、今後は気を付けなさいよ!」
コ、コイツ。と苛立ちが込み上げてきたが冤罪が晴れたわけだから大人になることにした。
「助かったよ、ヨシハル。お前が見ててくれなかったら…ホントありがとう」
「あぁ、気にすんなよ。じゃ、俺行くわ」
「おう!ホントありがとな!」
アイツがこんなに気の効く奴だとは思わなかった。ホントに助かった。今度学食くらい奢ってやらないとな。
そう思った俺が浅はかだった。
大学に着いてすぐ違和感を感じた。
学生たちが俺を見るたび耳打ちをしたり、距離をおいている。
話し掛けようと近づくと離れていく。
何が起きたのかわからなかった。
講義中いつもなら周りに人がいたが今日は誰もいなかった。
講義を終え片付けていると
「あれ?なんで痴漢がこんなとこいんの?」
ーーーー!?
「な、なんで?」
「え、やっぱホントに痴漢したの?うわヤバ!どんだけ溜まってんだよ、ババアとか」
「ち、違う!俺は痴漢なんてしてない!」
「いや、だってコレ」
驚愕した。あの現場での一部始終がSNSで拡散していた。ご丁寧に解決したとこだけ切り取られて。
「な、んだよこれ。誰がこんな…」
着いてからの違和感はコレのせいだった。
「ど、どこからこんなの流れてきた!?」
「え、撮影者、えーっと『よっさん』とかいう奴だけど?で、マジで痴漢したの?」
「してない!誤解もちゃんと晴れて解決してる!てか、よっさんってアカウント見し…」
妙な寒気がした。
そう、俺はこの『よっさん』に見覚えがあった。SNS上でその名を使っている人物に心当たりがあった。
ヨウイチ。
「アイツの動画…?でもなんで…」
さらに嫌な予感がした。そういえばヨシハルもなぜ先に行ったのだろう。通っている学部こそ違うがアイツもここの生徒だ。
もちろんヨウイチも。アイツらが一緒じゃなかったのも腑に落ちない。
まさかと思い2人のサークルに向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます