第3話 旅人は静かに星を出る
「はっはっは!!そしたらよー、靴紐が水牛の鼻輪に絡まって命拾いしたって話なんだよ!!あっりえねーよな!!」
「きゃっはは!なんでそこに水牛がテレポートしてくんのよ!はっはは!本当にありえない奇跡ね!!」
だいぶ酒が入り、俺たちの会話は笑いが絶えなくなっていた。もう彼女を古くからの友人のように感じる。彼女の相手の心に溶け込む能力は凄い。きっと、それが彼女が旅で得た能力なのだろう。そこで、自分の思惑を思い出す。
「そろそろ君の話が聞きたいな。旅をしていて、なぜここに留まったのか。」
「そうね!凄く楽しい話をたくさん聞かせてくれたしね!まずはねー!私は今年で34歳なの!」
「ふーん…」
もう少し見た目は若く見えるが、纏っている雰囲気はそこらの34歳の女性の比じゃない。
妖艶だ。磨きぬかれた34歳だ。
これは鍛えぬかれた武術家を見つけるより難し…
「バッツ!!!!」
ラックが俺の考えを読んで思考を遮る。
スパァーーーーアァン!!
「20代に見えますけどね!くらい言いなさいよ!!!きゃはは!」
この女良い右ビンタもってんじゃねーか。
「いいから続きを話せ!!!」
「ふー、そうね!あんた50歳を越した旅人に会ったことある??」
「ねーよ。なぁラック?」
「そうね。最高でも41歳かしらね。」
「こんなにたくさん旅人はいるのに。
数百の星を渡り歩いた私が一人も見つけられなかった。」
す、数百だ、、と?
俺は百をようやく越したくらいなのに…
なんなんだよ。この差は…
「何がいいてーんだよ。」
「旅人は年齢が上がるほど減っていってる。
なぜだと思う?」
「そりゃあ、旅する体力がなくなったり、死んだりするからじゃねーか?」
「そうね。それもあるわ。旅をやめる理由は宇宙を旅する理由くらい沢山ある。
そして、旅を続けるも辞めるも決めるのは自分なの。」
「…あんたは結局なんで辞めたんだ。旅を。」
「ふふっ、そうね。私は新しい発見が大好きで宇宙の旅を始めたの。
そして、水の星に来て発見したの。
水の動きは毎日違う。毎秒違う。同じような動きをしていても、1秒として同じ形状になることはない。
私もそれと同じように、同じような動きで日々を過ごしていても、今日あなたと出会って話ができた。お店で、今まで目にとまらなかった新しい調味料を見つけれた。
私の日々は水のように1秒として同じ時間はない。宇宙を飛び回るだけが旅じゃないって気がついたの。だから、私は旅をやめてここにいるのよ。」
「なるほどな…1秒として同じ時はないか…
たしかにな。旅を始めた理由が新発見なら、それは旅を辞める理由になる発見だな…
だが、ここに留まる理由になるのか?」
「私も地球に帰ることも考えた。でも、ここから地球は10年以上かかる。私はその頃44歳。そこから地球に家を作るのは難しいわ。
自信がない。怖いの…
でも、ここなら、この5年で積み上げた、生物達との絆とこの店がある。ここで死ぬまで旅をしない旅人として生きるのよ。」
女は自分の決断に僅かながら、迷いがあるのだろう。
目の端に涙を浮かべている。
きっと、その迷いは消えない。
歳を重ねて足が重くなるにつれ、迷いは後悔となるだろう。
きっと、女は薄々そのことに気づいているんだ。
自分が小さな発見で満足できなくなることを。大宇宙を旅して死にたかったと思うことを。
「どうかな。やっぱり俺には宇宙を旅していた方が楽しいと思うけどな…
なぁ、死ぬまで旅をする旅人にならねーか?俺とラックと…」
俺はそんなに先のこと考えるたちじゃないが、この人をここで腐らせたくない。
一生この人と旅をしたい。
そう思った。
「嫌よ。。あんた臭いもん。」
男は静かに店を出て。その足で星をでる。
ここではない。人間のいない、どこかに行きたくて。あと、臭くない服を買いたくて。
俺は旅人。
何も得ず、何も残せずとも旅人だ。
俺は一生旅人だ。
旅人ライフ ぱんく @punk10
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