9-3

 戦闘中の魔物をビルの窓から狙撃していく。

魔弾丸は過たず命中して小型の四足魔物が倒れる。

周りにいた魔物だけじゃなくて、防衛している松濤コミュの人たちもびっくりしてきょろきょろしていたけど、俺の潜んでいる場所は見つけられないようだ。

戦闘の最中なので場所を特定する余裕もないのだろう。

防御が手薄になっている部分に援護射撃をしながら待っていると、エルナと吉永さんが現れた。

エルナの手には金属製の街灯で作った即席の太い槍が握られている。

形状はぶっとい竹槍みたいなもので、先端が斜めに切断されていた。

あれを超絶パワーでくらえば、どんな魔物でも即死しそうな感じだ。

エルナたちは身を潜めながら親玉である牛頭の背後へと忍び寄っていった。


 突如駆けだしたエルナが背後から牛頭へと槍を突き刺す。

騎士道もルールもあったもんじゃないけど、本物の戦闘なんてそんなものだ。

相手の想定外の攻撃が何よりも効くわけで、奇襲とはその端的な例といえるだろう。

まさか人間が背後から現れるとは思っていなかったらしく、魔物の間に動揺が走っているみたいだ。

親玉である牛頭は背中に槍が刺さったままの状態でのたうち回っているので、それを見た魔物たちの動きも止まってしまった。

しかも鉄柱は中心が空洞のストロー状だったので、体内の血液がそこから豪快に噴き出して阿鼻叫喚の地獄絵図を描いている。

魔物だけじゃなくて松濤公園の人たちまでボケっとその様子を見ていた。


「今じゃ! 魔物をせん滅するのじゃぁっ!」


 牛頭の血をシャワーのように浴びながらエルナが大きな声で人間たちを鼓舞する。

それに呼応するように吉永さんも雄叫びを上げた。

クールな小デブとしては大声など上げずに淡々と狙撃で応じる。

コミュのみんなも戦況が改善されたことを理解して鬨の声を上げだした。

人間たちは勢いづき魔物は次々とその数を減らしていった。



 魔物の中には外皮の硬い奴もいて、やっぱり俺の魔弾丸が弾かれることも多かった。

そういう場合は急所を狙ったりして対応したけど、標的が小さいとやっぱり命中させにくい。

威力の増大と命中補正の上昇が期待されるところだ。

今回の戦闘でまたレベルが上がった。


レベル :16 → 20

弾数  :16発 → 18発

リロード:5秒 → 4秒

射程  :36メートル → 41メートル

威力  :28 → 30

命中補正:24% → 25%

モード :三点バースト、フルオート、デュアル・ウィルドゥ、??? →三点バースト、フルオート、デュアル・ウィルドゥ、テーザーガン、???


 新たにテーザーガンというモードが追加されている。

これはショックガンみたいなもので、対象を硬直状態にできる特殊な弾丸を撃てるものだ。

葛城ちゃんのスキル『麻痺』に近い物だろう。

威力も数段階に分けることが可能だ。

殺傷能力はないが、これなら硬い敵が相手でも足止め効果があるかもしれない。

テーザーガンで動きを止めてエルナが止めを刺すという戦術も取れそうだ。

それに、人間相手でも思いっきりぶっ放せるという利点もある。

『マジックガンナー』の応用範囲が大幅に上がったと言えるだろう。


「反町さん!」


 俺の姿を認めた塚本さんが防壁の上から飛び降りてきた。


「話を聞いて救援にきたぜ」


 キザに決まったと思ったら塚本さんが抱きついてきた。


「うえっ?」


 思ってた以上にカッコよかった? 

って……それはダメですぅ……。

なんかね、柔らかいの……。

きっと半分は優しさで出来ている柔らかい物質が二つ押し付けられているの……。

ぼかぁ幸せだなぁ……。

それにね、汗臭さの中にいい匂いもするんだぁ……。

ここはディストピアじゃない、ユートピアなのぉ……。


「いっでええええっ!」


 天上の世界にいた俺は、腹の激痛と共に地上へと引き戻された。

俺が大声を上げたもんだから塚本さんもびっくりして体を離してしまったぞ。


「どなたかのぉ? 寛二よ、私にも紹介してたもぉ」


 ニコニコしたエルナが俺の腹を掴んでいる。

いつもより力強い(当社比1.7倍)?


「ま、前に話しただろう? こちらは鍋島松濤コミュの塚本里奈さん」

「おお、この人が。私は反町寛二の相棒、エルナ・ウィッテヘン・ベロスンヘルム・リッツじゃ」


 左手で腹を掴んだままエルナが握手をしていた。

いい加減に離せよ……。


「ええ? 反町さんってこんなに素敵な彼女がいらしたんですか?」


 俺の背中に乗って、リアルにマウントをとるのが大好きな異世界人が素敵?


「彼女ではない。単なる相棒じゃ」

「なんでもいいから腹を離せ!」


 まったく、なんなんだよ? 


「嫉妬なのか? バツイチ小デブオッサンに嫉妬か?」

「違うわっ! 私は自分のおもちゃを他人にとられるのが大嫌いな狭量美少女なのじゃ!」

「29歳の発言とは思えないほど、ツッコミどころ満載な開き直りだな!」


 俺たちのやり取りを見ていた塚本さんがくすりと笑みをこぼした。


「やっぱり彼女さんなんですね。失礼しましたエルナさん。でも、これで納得がいったわ。反町さんを誘っても全然その気を見せないと思ったら、こういう人が好きだったんだ」


 塚本さんの目が一瞬だけエルナの控えめな胸に固定された。

だがそれは誤解だ。

エルナも好きだけど塚本さんだってタイプなのである。

胸だって小さいのより、大きい方が……いや、どっちも好きなのだ!


「ん~? それは何じゃ? 挑発か? 持てる者が持たざる者への挑発と受け止めていいのじゃな? 私は脂肪を揉むのが趣味なのじゃ。何も寛二の腹でなくても、お主のぶら下げている二つの肉塊でも構わぬのじゃぞ」


 こいつの馬鹿力で揉んだら塚本さんの胸がさらに腫れてしまう!? 

えっ……さらに大きく? 

いや、バカなことを考えている場合ではないな。


「こら! 胸なら俺のを揉んどけ。そんなことよりそろそろ出発するぞ。吉永さんを亀戸まで送っていかなきゃならないんだから」

「えっ? 本当に揉んでもよいのかえ?」


 本気にするな。

で、なんで頬を赤らめる? 

エルナは無視して吉永さんと今後の予定を立てた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る